インパクト投資を取り巻く対話
今所属している組織では(以前も少し書いたような気がしますが)毎週月曜の朝会のミーティングの最後に「AHA!」を共有する場があります。何を共有してもいいこの時間。皆の視線が集中するし、ミーティングの最後で時間もあまりないので発言するときはいつも緊張してしまうひととき。(もっと気楽でいいはずだけれどもノンネイティブとしてはやはり慣れない)
でも今日は言いたい事があったので共有。以下のような内容。
比較的新しい考え方を世界に普及する時に大切なことは二つのこと(だと最近感じる)。一つは世界の大半の''What is this about?"な人達に興味をもってもらうこと。もう一つは新しい考え方であるからこそ、随時新しい問いを立て、それに対する解を見つけ続ける為の探究心/試行錯誤の取り組み/対話をし続けなければいけないということ。
MOOCだってそうですよね。MOOCという考え方は既にかなり前からcMOOCが登場した時に登場していて、xMOOCが2012年にものすごい話題になった後からも(これらは過去のエントリ-で書いています)。当事者は普及活動に力を入れつつも、どうより改善するかや研究活動にすごく勤しんでいる。
土曜の体験と今夜の体験(下記記載)がまさに、インパクト投資というテーマに対してその両方だったな、と思ったのでこの期にインパクト投資という考え方の発達についてまとめてみました。今回のエントリ-はややマニアックです。「教育」でも「学び」でもありません。「ビジネス」「投資」のお話です。
一応定義を紹介。
ちなみに私が証券会社にいた時、Sustainabilityを意識した投資アドバイスとして GS SUSTAINというレポートがシリーズで発行されたり( レポート例)営業トークもしていましたが、WEFのレポートのタイトルにあるようにこういうものを参考にしてくれる投資家はかなりニッチな方々でした(しかもほとんどが欧州系ファンドだったり)しかも、今振り返ると、これはインパクト投資ではなく、social/environmentな要素を「考慮しながら中長期的な視点を持って投資判断を下す」というもので上記のintentionalityがやや足りない印象。
今はむしろ色々な資本提供者が自分達を「インパクト投資家」と呼んでいたり、「自分達もインパクト投資ファンド始めました」というのがあったりなので、その投資家間の違いなどをきちんと理解し、それぞれが目指す「インパクト」が何か、どういう期間で何を測定するのか、金銭的リターンとソーシャルリターンのバランスは、投資を受ける側が気をつけなくてはいけないこと(当初のミッションが様々な投資家の意向に振り回された結果起きる「mission drift」とか)は何か。 そういった会話の方が重要性を増しています(アプローチの普及による業界活性化も引き続き大切ですが、それ以上に)
一番大きいのはその資金がどこから来ているか。Private Equityのようなところから出しているものからAcumenのように寄付から成り立つファンドが出しているものまで。財団や事業会社が出しているケースもあります。そうするとそれぞれ目的が微妙に異なるので、そこの理解が大切という話。
マイクロファイナンス業界がそうだったように、どんなイノベーションもそうですが、しばらく 最初の普及期が過ぎると色々な次の課題が浮かび上がってきます。これ、MOOCも同じですね。インパクト投資業界も次のフェーズの新たな問いに色々と向き合っています。
例えば起業家達の限界を超えたところに存在する「壁」(バリューチェーン、公共インフラ/文化的な許容度といった観点、政府)の話。これらを取り除くプロセスをどのようにすべきか。どのようにその投資先の起業家/団体の外にいる他プレーヤーが関与し、その団体のみならずセクター全体を大きく動かして行くか、そういう視点も持ち備える事が求められるようになってきました。
なんだか先日報道されていたNHKの貧困特集に対してネット上で一部「自助努力せよ、の色が濃すぎるのはどうかと思う」といった反応が出ていましたが、全く異なる文脈/地域でも似たように 「社会起業家や彼らの組織(営利/非営利)のみでは解決できないものがある」という結論がシェアされていたのは面白いと感じます。
それが最近発行された 「Beyond the Pioneer」のレポート。コンサルティング会社のデロイトが充実の各種団体のサポートを受けて作成してくれたものです。これは数年前に出版された業界内での重要な存在となっている 「From Blueprint to Scale」の続編として認識されていて、business approached based social innovationに関心が在る人達の必読書だと思います。
今夜同僚3人と仲良くコロンビア大のビジネススクールで行われていた こちらのイベントに行ってきました。Beyond the Pioneerの出版記念のようなもの。月曜の夜6時であったにも関わらず、200人ほどの参加者がいました。
この業界に身を置くものは、物事がグレーであることに慣れなくてはいけない、そして複雑であることに喜んで飛び込み、走りながら試行錯誤し、色々とfigure outしなくてはいけない。といったスピーカーの人のメッセージが印象的でした。
Acumenでも最近事業会社を巻き込んだTA (Technical Assistant) initiativeというものを始めています。また、投資先だったインド初の救急車の会社は規模化が進んだ後、政府と契約を結ぶことになり、今は官民協業でサービスをより広範囲で届ける仕組みをつくり上げたり・・・
このレポートにある 起業家/ベンチャ-の外側にいるindustry facilitatorというプレーヤー達。彼らの重要性やその可能性を考えると、自分が今まで身を置いていた「ビジネス」の世界にいる人達ともっと今後コラボレーションするような世界が築けていくのではと感じ、ワクワクします。
☆以上は私の個人的な現時点での考え方で、私の所属する組織の意見では特にないのであしからず・・・。しかも、この世界に来てからまだ一年も経ってないので、まだまだ勉強途中です。
以下はGoogle Ngram Viewer(大量の本(コーパス)を検索して年ごとにヒット数を調べられるサービス)で以下の二つのキーワードで検索した結果のもの。
でも今日は言いたい事があったので共有。以下のような内容。
「土曜に日本人の大学生向けのネットワーキングイベントに行ってきました。その体験が今月の上旬に参加していたSECON2014(Harvard Social Enterprise Conference 2014)や先週の水曜のAcumenのNYチャプターのファンドレイジングイベントのものとあまりにも異なったのでそこから得た学び。
最近参加したイベントに来ていた人達は基本的にソーシャルイノベーションに興味がある人、インパクトインベストメントやAcumenに興味を持っている人達。一方で土曜は全くアウェーな場。大学生に限らず、その場にいた社会人(全員日本人)のほとんどはAcumenはもちろんのこと、インパクト投資はおろかソーシャルイノベーションという単語と遠い世界にいるような方々で。「NPO」というラベルのついた私にはある種の「固定概念」を抱かれていたような気もしていました。
そんなゼロベースのスタート、信頼も興味もない状態で如何に相手に私/私のやっていることに興味を抱いてもらうか。私との対話からsomething new/something excitingを感じてもらうか。SECON2014やNYチャプターのイベント時のネットワーキングとは全く違うことが求められ、とても良い経験になりました。
と、同時に、自分達が成し遂げようとしているChanging the way the world tackles the issue of poverty; with dignity rather than dependence and with choice rather than charityという仕事の道のりがどれだけ長く続く道なのか、ということも再確認ができました」
比較的新しい考え方を世界に普及する時に大切なことは二つのこと(だと最近感じる)。一つは世界の大半の''What is this about?"な人達に興味をもってもらうこと。もう一つは新しい考え方であるからこそ、随時新しい問いを立て、それに対する解を見つけ続ける為の探究心/試行錯誤の取り組み/対話をし続けなければいけないということ。
MOOCだってそうですよね。MOOCという考え方は既にかなり前からcMOOCが登場した時に登場していて、xMOOCが2012年にものすごい話題になった後からも(これらは過去のエントリ-で書いています)。当事者は普及活動に力を入れつつも、どうより改善するかや研究活動にすごく勤しんでいる。
土曜の体験と今夜の体験(下記記載)がまさに、インパクト投資というテーマに対してその両方だったな、と思ったのでこの期にインパクト投資という考え方の発達についてまとめてみました。今回のエントリ-はややマニアックです。「教育」でも「学び」でもありません。「ビジネス」「投資」のお話です。
Impact Investingという単語は2007年から
- 貧困を救うには政府、国際組織や寄付しか方法がないという考え方
- 世界の貧困問題を解決するためにはそういうことに強い問題意識を(心理的に、感情的に)抱いている人が(だけが)取り組むものだという考え方
- 「持つ者」から「持たざる者」へ、という一方通行の支援こそが貧困解決への道だという考え方
一応定義を紹介。
昨年WEFから発行されて話題になった 「From the Margins to the Mainstream: Assessment of the Impact Investment Sector and Opportunities to Engage Mainstream Investors」レポートによると:Impact investing is an investment approach that intentionally seeks to create both financial return and positive social or environmental impact that is actively measured
また、業界の代表団体の一つである GIIN(Global Impact Investing Network)の定義によると:Impact investments are investments made into companies, organizations, and funds with the intention to generate social and environmental impact alongside a financial return.
ちなみに私が証券会社にいた時、Sustainabilityを意識した投資アドバイスとして GS SUSTAINというレポートがシリーズで発行されたり( レポート例)営業トークもしていましたが、WEFのレポートのタイトルにあるようにこういうものを参考にしてくれる投資家はかなりニッチな方々でした(しかもほとんどが欧州系ファンドだったり)しかも、今振り返ると、これはインパクト投資ではなく、social/environmentな要素を「考慮しながら中長期的な視点を持って投資判断を下す」というもので上記のintentionalityがやや足りない印象。
業界は既に次のフェーズへ
と、2007年に「名前」がついてから、この 「市場アプローチを活用できるところでは社会的インパクト創出に使おう」という考え方が更に広まって行きました。Google Trendで「Impact Investing」で検索した結果 4月28日時点 |
今はむしろ色々な資本提供者が自分達を「インパクト投資家」と呼んでいたり、「自分達もインパクト投資ファンド始めました」というのがあったりなので、その投資家間の違いなどをきちんと理解し、それぞれが目指す「インパクト」が何か、どういう期間で何を測定するのか、金銭的リターンとソーシャルリターンのバランスは、投資を受ける側が気をつけなくてはいけないこと(当初のミッションが様々な投資家の意向に振り回された結果起きる「mission drift」とか)は何か。 そういった会話の方が重要性を増しています(アプローチの普及による業界活性化も引き続き大切ですが、それ以上に)
一番大きいのはその資金がどこから来ているか。Private Equityのようなところから出しているものからAcumenのように寄付から成り立つファンドが出しているものまで。財団や事業会社が出しているケースもあります。そうするとそれぞれ目的が微妙に異なるので、そこの理解が大切という話。
マイクロファイナンス業界がそうだったように、どんなイノベーションもそうですが、しばらく 最初の普及期が過ぎると色々な次の課題が浮かび上がってきます。これ、MOOCも同じですね。インパクト投資業界も次のフェーズの新たな問いに色々と向き合っています。
例えば起業家達の限界を超えたところに存在する「壁」(バリューチェーン、公共インフラ/文化的な許容度といった観点、政府)の話。これらを取り除くプロセスをどのようにすべきか。どのようにその投資先の起業家/団体の外にいる他プレーヤーが関与し、その団体のみならずセクター全体を大きく動かして行くか、そういう視点も持ち備える事が求められるようになってきました。
なんだか先日報道されていたNHKの貧困特集に対してネット上で一部「自助努力せよ、の色が濃すぎるのはどうかと思う」といった反応が出ていましたが、全く異なる文脈/地域でも似たように 「社会起業家や彼らの組織(営利/非営利)のみでは解決できないものがある」という結論がシェアされていたのは面白いと感じます。
それが最近発行された 「Beyond the Pioneer」のレポート。コンサルティング会社のデロイトが充実の各種団体のサポートを受けて作成してくれたものです。これは数年前に出版された業界内での重要な存在となっている 「From Blueprint to Scale」の続編として認識されていて、business approached based social innovationに関心が在る人達の必読書だと思います。
今夜同僚3人と仲良くコロンビア大のビジネススクールで行われていた こちらのイベントに行ってきました。Beyond the Pioneerの出版記念のようなもの。月曜の夜6時であったにも関わらず、200人ほどの参加者がいました。
この業界に身を置くものは、物事がグレーであることに慣れなくてはいけない、そして複雑であることに喜んで飛び込み、走りながら試行錯誤し、色々とfigure outしなくてはいけない。といったスピーカーの人のメッセージが印象的でした。
Acumenでも最近事業会社を巻き込んだTA (Technical Assistant) initiativeというものを始めています。また、投資先だったインド初の救急車の会社は規模化が進んだ後、政府と契約を結ぶことになり、今は官民協業でサービスをより広範囲で届ける仕組みをつくり上げたり・・・
このレポートにある 起業家/ベンチャ-の外側にいるindustry facilitatorというプレーヤー達。彼らの重要性やその可能性を考えると、自分が今まで身を置いていた「ビジネス」の世界にいる人達ともっと今後コラボレーションするような世界が築けていくのではと感じ、ワクワクします。
☆以上は私の個人的な現時点での考え方で、私の所属する組織の意見では特にないのであしからず・・・。しかも、この世界に来てからまだ一年も経ってないので、まだまだ勉強途中です。
以下はGoogle Ngram Viewer(大量の本(コーパス)を検索して年ごとにヒット数を調べられるサービス)で以下の二つのキーワードで検索した結果のもの。