Tomoko Matsukawa 松川倫子

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MOOCをデザインする時に意識していること - 協調学習の視点

長い投稿を一つ前にしたので、これはもう少し短く。久々の「学び x テクノロジー」的なネタです。

背景

今ニューヨークで自分はコースデザイナーとして働いているのですが @社会起業家に資金提供するインパクト投資家という位置づけのAcumenという組織 ここでいう「 コース」は「無料で」「インターネットを通して教材が届けられる 」種類のもの ・・ 一部のマニアな人達にMOOC massive open online course と呼ばれたりしているものですね 以下は私達のChief Innovation Officerのツイート 初めて提供したのが2013年の年始だったので(当時はGoogle DocとMailchimpとWordpressで提供というプロトタイプ版)二年半が経ちました(私は2013年6月から関わっています)
そんなMOOCもひとくくりに語られることが巷では多いのですが、その内容/デザインの在り方には色々な形があるということはまだまだ知られていません。一般的にメディアで語られたりイメージとして広がっているMOOCは90年代のe-learningの延長モデルのままのものが多く、教材を見始めてから続ける&宿題をする一連のプロセスは忙しいビジネスパーソンには苦痛(内容がドライ、ビデオが長い、宿題をする時間がない)だったりします。だから「登録者は多いけれど実際に学んでいる人はどれだけいるやら」みたいな声が出てくる訳です。MOOCじゃなくSPOC(small private open course)に特化することにして、コースに入ってくる登録者の質をある程度コントロールしようとする教育機関も出てきました。もちろん一般的なMOOCにも成功と呼ばれるものはありますし、多くのnot interactive/boringなものであったとしても時間と好奇心・意欲がある人や今迄そういう知見に触れる機会が無かった人にとっては知的刺激の宝庫である可能性は引き続き高いです。

コースデザイナーの考えなきゃいけないこと諸々

そんなMOOCのデザインを気付いたら1年半もやってきたわけですが、今でも「あ、これも考慮しなくてはいけなかったかー」というくらい、コースデザイナーは考えなくちゃいけないこと/または時間をかけてしっかり考えると学習者からのフィードバックやアウトプットに変化が出ることがいっぱいあることが分かってきました。例えば(MOOCに限らずですが)

  • 何のコンテンツか(人類文化学?ホテルマネージメント?プログラミング?)
  • 誰のためか(キャリアにおけるどのステージの人か、どういうことに興味がある人のためか、など)
  • その目的は何か(現在の仕事での成果を上げるため?転職の幅を広げるため?知的好奇心を満たすため?新しい技術や考え方を身につけるため?)
  • プラットフォームは何か、それを使いこなすためのサポートは登録からのステップの中でどう提供するか
  • プラットフォーム上に存在しないけれど学習者の経験上必要なものはどうやって提供するか
  • コース展開中のコミュニケーションはどうするか、何を伝えるか、どういう頻度で伝えるか
  • 学びの学習効果測定や、取り組み自体の社会的インパクト測定
  • 定量/定性的なフィードバックやアウトプットの集め方
  • 過去の受講生の巻き込み方やコミュニティづくりへの展開
  • マーケティング戦略と複数コースのパッケージ化など
  • (コースデザイナー範疇を超えますが受講生データのデータベース化、分析なども入ってきます)

・・・・小さな6人チームで今は2016年の目標、仮説検証のための実験など議論しているところなのですが、そんなタイミングで一つ記事が公開されました。+Acumenのコースの特徴でもある、協調学習(チームで一緒に学ぶ形式)についての記事です。最近オンラインコースデザインについて問い合わせを受けることが増えてきたので、今後も+Acumenとしてこうやって公の形で情報発信していきたいと思っています(書くのはネイティブの同僚になると思いますが)

一人で学ぶ「オンラインコース」ではない形での価値の提供

EdSurge社より「Peer Pressure Will Help You Finish That MOOC 2010/10/5
EdSurge article 'Peer Pressure Will Help You Finish That MOOC'
EdSurge Article (Oct 5th, 2015)
'Peer Pressure Will Help You Finish That MOOC'

ちなみに記事を書いたAmyは私達のチームメイトでStanfordで私のいたHarvardのTIE(Technology, Innovation, Education)と似たようなプログラムLDT(Learning, Design, Technology)を卒業した人。そして、+Acumenがパートナーとしていつもお世話になっているNovoEdプラットフォーム(CourseraやEdXよりもグループ学習をサポートした機能をベースにコースデザインができるようになっているので我々はそれを選択)での私達の担当者はTIEで私の一つ下の学年で卒業した友人が、EdSurgeのライターには私のTIEの同じ学年を卒業した友人が。

とても狭い世界です、はい。

ちなみにBOPと呼ばれている層を対象にしているビジネスでは商品/サービスの価値を対象顧客に理解してもらうための地道な(相手のおかれている環境への深い理解や相手の大切にしている価値観や習慣を尊重した上での)啓蒙活動(マーケティング)が鍵だと良く言われますが(例:綺麗な飲み水にお金を払えばお腹を壊すことが減り中期的に医療費削減や生産性向上につながるのに、飲み水にお金を払うことをしてきていない人にはなかなか最初売りにくい)オンラインコースという世界で協調学習の価値を届けるのはそれとどこか似ているところがあると思っています。従来型の詰め込み学校教育を受けて来た人達など特に。「学び=正しい一つの正しい答を一人で見つける」ではなくて「学び=はっきりした一つの正しい答が存在しない複雑な課題に他人と意見を交換しながら気付きを深めていく」・・・どちらが実社会でより有意義な体験となるか(私達のコースの受講生の9割以上は現在社会人)

(オンラインコースという状況下で)グループで一緒に学んでいく事の価値を体験したことがない人にその可能性をどう信じてもらうか。マーケティング戦略面においてまだまだたくさんやるべきことがある、+Acumenチームです。

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