アマゾン第2本社のニュースが発表されて二週間
先日triggerについてのエントリーで「パートナーがどういうことにtriggerされるかの理解が大事」と書いたのですが、早速自分のパートナーのtriggerを発見する出来事がありました。
きっかけはアマゾンの第二本社の一つがニューヨーク州のロングアイランドシティ(以下LIC)に決まったというニュース。中間選挙がひと段落した13日に正式に発表された一大ニュースでした。
それまでの1年ちょっと、全米(とカナダ)の230以上の都市がAmazonに対して「第二本社」の誘致活動をせっせと行なっていたのは知っていたのですが、NYTのスクープ記事が正式発表の数日前に出るまでまさかLICがその有力候補になっているなんて全く知らずに過ごしていました。
一方、喜んでいない人たち、不安・不満を口にしている人たちは:
2018年秋の段階での私の印象:
そんなことを思い出しながら「今までのアストリア&LICはもうなくなってしまうんだな」と感じます。自分は地元の人でもないし、そこに深い愛着がある訳でもないですが、過去数年かなりの時間を過ごした人間としてはちょっとさみしいな、という気持ちもあったりします。
これから長い月日をかけてあの地域が変化していく過程で、すでに実在する地域内の格差がどのように改善、または悪化していくのかも気になります。
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きっかけはアマゾンの第二本社の一つがニューヨーク州のロングアイランドシティ(以下LIC)に決まったというニュース。中間選挙がひと段落した13日に正式に発表された一大ニュースでした。
それまでの1年ちょっと、全米(とカナダ)の230以上の都市がAmazonに対して「第二本社」の誘致活動をせっせと行なっていたのは知っていたのですが、NYTのスクープ記事が正式発表の数日前に出るまでまさかLICがその有力候補になっているなんて全く知らずに過ごしていました。
期待と不安が交錯するニューヨーカーの気持ち
このニュースには今の所賛成・welcome派と反対・慎重派の両方の意見があります。この展開がtriggerとなりカッカしている私のパートナーは反対派ですがまず両方の意見はそれぞれどういう声があるかをまとめてみました。私がここ2週間で見聞きした中での印象をまとめてみると、以下のような感じです。
喜んでいる人たちは:
- マクロ経済的に物事を見ている人たち、直接的な影響を受けない人たち(でも間接的な恩恵を受けうる人たちを含む)例えばマンハッタン内に住んでいるVCで有名なFred Wilsonはブログで支持派意見を発信。
- "That is the power of economic development. It is a virtuous circle. You invest, you grow, you produce economic returns, you invest, you grow. Rinse and repeat." - AVC "Economic Development" (Nov 14, 2018) マクロ的に見たら投資対効果はあるというロジック、それでもコメント欄に寄せられている色々な意見を見るとこのロジックを手放しで支持している人ばかりでないことが伝わってきます
- 積極的な開発を支援している人たちの宣伝メッセージを信じている人たち(先日乗ったタクシーの運転手も「仕事もお店も増えるからいいことだ」と前向きでした)
- “This is a tremendous opportunity to bring tens of thousands of good jobs to our city and open up good-paying careers in technology for New Yorkers.”- The New York Times "Amazon's New Neighbor: The Nation's Largest Housing Project' (Nov 12, 2018) 本文の中にあった州の公務員のコメント(誘致をしていた人たち)
- 不動産業界の人たち(普段は静かな11-12月も相当忙しくなっている模様、私が最近話しているブローカーは3-4月くらいにはLICやアストリア近辺の市場で物件の在庫が空になるんじゃないかな、とまで言っていました)
- 'One local brokerage firm reported it sold nearly 150 units over four days last week, about 15 times its usual volume. ' - from "Amazon Employees Join the Rush to Buy Long Island City Condos" - The Wall Street Journal (Nov 20, 2018)
一方、喜んでいない人たち、不安・不満を口にしている人たちは:
- すでにLICや近辺の地域での不動産価格の毎年の上昇や急激な街並みの変化に辟易している人たち
- Queens Prices Reach New Highs Despite Slowdown in Manhattan and Brooklyn - Streeteasy Sept 26, 2018 Report
- 通勤でLICを通過することを余儀なくされている既存のQueens住民、更なる通勤混雑の悪化を懸念
- ニューヨークでなく他の都市の誘致が成功した方が恩恵を受ける人が多かったのではないかと思っている人たち(「開発が常に行われていて、人も企業もお金も集まるニューヨークに行かなくても」という論調)
- 大企業・高収入労働者の誘致を通じた都市開発=地元の雇用創出・生活向上にならないと信じている、またはならなかったという実体験がある人たち
- 「もっともサンフランシスコやワシントンには急速に進む再開発と縁のない人々も多く暮らしており、その数は増えている。高層ビルやおしゃれなレストランの谷間に身を潜めるホームレス――階級格差を風刺したディケンズの小説の舞台さながらだ。」- アマゾン第2本社が示す、アメリカ「繁栄の分断」より(Newsweek Japan 11月24日)
- 外部の人たちが大量流入することを普通に嫌う地元の人(外部から越してきたtransplant達によって大きく変化をすでに遂げたブルックリンのようになるのを嫌がっている人がクイーンズには比較的多い - 私の肌感覚)
- 「L.I.C.は近年再開発が進み、ビジネスマンや若いファミリー層が好んで移り住んでいる。おしゃれなホテルや飲食店、ブルワリーなども次々にオープン。『次のブルックリン』として、5~6年ほど前から少しずつ注目を浴びていた。」- アマゾン第2本社がニューヨークに決定し2万5千人の雇用を創出。それでも地元民が手放しで喜べないワケ(Yahoo!ニュース 11月17日)より。まさにこれを嫌がっているクイーンズ地元っ子が結構いるようです、私のパートナー含め。彼はもともとクイーンズのもっと奥の地域出身でこの国の格差の問題や「持たざる者のリアル」にとても敏感。今回もアマゾンのLIC進出のニュースを前向きに取り上げるニュース・記事を見るたびにtriggerされていて(現在進行形、Amazon Primeを解約しようかな、とまで)そっか、こういうことがそこまでtriggerになるんだな、という勉強になっています。
- "But past the gleaming skyline of high-rises, many residents fear that Amazon’s arrival will only intensify the gentrification that is making the neighborhood less affordable for people of limited means." - The New York Times "Amazon's New Neighbor: The Nation's Largest Housing Project' (Nov 12, 2018) LICのすぐ近くには低所得者層向けの公共住宅団地があり、そこの設備の投資不足という問題があったり、そこに住んでいる人たちの生活への影響を懸念する声も。この記事の中にある読者のコメント欄も必見。
LICってどういうところ
ニューヨークに住んで5年。この異国での自分にとっての近年の「ホーム」は自宅と職場があるマンハッタンの南部と、パートナーが住んでいるLIC/アストリア近辺の二箇所。雑然としたマンハッタンから電車で川を越えてLIC側にいくと心がホッと落ち着いてくるくらい愛着を持ち始めたエリアが私にとってのLIC/アストリアです。
LICやアストリアの地域にはすでにシティバイク(レンタル自転車)の駐輪場がいくつも存在 |
「アマゾン第2本社の建設地決定! その1つ、ロングアイランドシティを歩いて理由を探ってみた」の記事に写真がいくつか載っていますが、まだまだ正直言って便利な地域ではありません。開発途上、新旧が不思議な感じで共存している地域です。
2018年秋の段階での私の印象:
- 都心部(マンハッタン)との距離感、交通の便は乗り継ぎがスムーズに行けば良し
- 移民がもともと多いエリアでLICの北に広がるアストリアではレストランの種類が豊富、家族・親族が経営しているような小規模事業がいっぱい
- 低所得者層向けのプロジェクトも一部に広がっていて、アストリア・LICの中でも西側の治安はあまりよくない時もある
- LICはもともとの工業地帯の雰囲気がまだ色濃く残っているものの、そんな中異様に高層ビルの開発が進んでいる
- LICはもちろんその北のアストリア地域でもチェーン店系の進出はまだまだ。スタバでさえ最寄りのものを見つけても徒歩で行けない距離のものもある。サードウェーブコーヒーなんてほとんど近くに存在せず
- 週末はLICはガランとしている
- ブルックリンへの交通の便はよくない、タクシーを使う必要がある。一方でアストリアやLICに住んでいる人が第二の中華街と言われるFlushingやエスニックフードのメッカでもあるJackson Heightsをはじめとするクイーンズの内陸に行くのは結構便利
- 食べ物デリバリーアプリのSeamlessでも、ワークアウトクラスアプリのClassPassでも、「ここから半径1マイルで検索」をするとマンハッタンにいるより圧倒的に選択肢が乏しくなる状況
- そんな感じで街のインフラはマンハッタンに比べたらダントツ遅れているにも関わらず平均的な不動産価格・家賃はマンハッタンに負けないくらい。1Bedroomでだいたい$2000-$3000、2Bedroomで$2500-$4000か。東京に比べて家賃が高いのは何もLICに限った話ではないのは上記のStreeteasy Sept 26, 2018 Reportの表を見てもらえると分かります。
平凡な、マンハッタンから電車で15分ほどとは信じられないのほほんとした道。 |
今後数年に注目
私の母は虎ノ門ヒルズがオープンする前から東京の虎ノ門で 小さなお店を経営していました(今までの合計8年)。その母のお店の周りにあった小さなお店たちを取り巻く環境は過去数年で大きく変化しました。その中では人生の大きな転機を迎えることになった人たちもいました。そんなことを思い出しながら「今までのアストリア&LICはもうなくなってしまうんだな」と感じます。自分は地元の人でもないし、そこに深い愛着がある訳でもないですが、過去数年かなりの時間を過ごした人間としてはちょっとさみしいな、という気持ちもあったりします。
これから長い月日をかけてあの地域が変化していく過程で、すでに実在する地域内の格差がどのように改善、または悪化していくのかも気になります。
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