Tomoko Matsukawa 松川倫子

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「共感疲労」とセルフマネジメント

ソーシャルメディアやインターネットのおかげで、私たちは遠く離れた世界で、一生出会うこともなかったであろう人たちの身に起きていることを身近に感じることができる機会に囲まれている。

それはそれで、関心を持つ、という良い効果もある一方で

過去エントリー:Being interestingでなくbeing interestedでいるために

発信者によってある程度切り取られて配信されている情報への向き合い方に無自覚であることが続くことの副作用も考えなければいけないな、と思うことが増えてきている。

共感疲労という疲労の存在

確証バイアス、グループシンクの罠、エコーチェンバー現象、アクティブ・ノンアクション(行動しているように見えて、実は何の行動もしていないという罠 by スマントラ・ゴシャール)・・・色々な副作用がある中で、最近自分が興味を持っているのはemotional fatigue/emotional exhausition(共感疲労・感情的疲労)。

「共感疲労」とは、他者の苦しみや悲しみに接したとき、感情移入しすぎてしまい、無気力状態に陥ってしまうこと出所:イミダス)。これが蓄積されていくと、心のゆとりがなくなり、本来のその人らしさが失われていく、とも別のサイトには書かれていた。

「Empahthy - 共感力 - って大事だよね」と散々言われる世の中だからこそ、そして、共感したくなる事柄が目に入ってくる機会にあふれている時代だからこそ、こういう疲労があることを意識して自分の心身の調子と相談しながら、外から入ってくる情報の向き合い方や、情報と関わった後の自分の思考・行動に意図的であることが大事なのだろう -- そういうことを考えさせられる概念だ。

仕事の場で意識する共感疲労との向き合い方

ライフワークとして、人の変容・成長の支援をする・悩みを乗り越えることをサポートする、ということをしていたり、仕事で、様々なステークホルダーの意図を汲み取りプロジェクトを前に進めるということをするなかで、時たま共感疲労の元というものを自分も察知することがある。もちろんtwitterでニュースを追っている時などに「あ、これそろそろ共感疲労たまってくるかも」と感じることもある。

そんな時に意識すること。自分が考えていること近いことを、前述の記事の精神科医の方が書かれていた。

精神科医として仕事をしていると、よく「相手の悩み事を聞いていると精神的に疲れるでしょう」と言われます。けれども、患者さんの悩みを聞いていちいち疲れていたら、精神科医としてやっていけません。

私たち精神科医は、共感疲労を避けるためのトレーニングを受けています。なるべく相手から距離を置いて、相手の身にならないように話を聞く。私だったらどう思うかとは考えない。基本的に、共感し過ぎない態度を取りながら相手に向き合うのです。

自分の心を消して話を聞くというと、冷たい人と思われるかもしれません。でも、共感疲労に陥ってしまっては冷静に話を聞くことができなくなります。身がもたなくなってこちらが倒れたら、精神科医は務まらないので、そのためのトレーニングを受けるのです - 精神科医の香山リカさんによる2011年の震災後の記事「被災していない人にも『共感疲労』という苦しみがある」

「身がもたなくなってこちらが倒れたら〜」のところとかまさにそう。もちろん相手が話していることや、言外のことをキャッチする力も必要なので、caringとmoving forward(相手のために、チームのために期待されている役割を全うする)のバランスが難しいのだけれども、一緒に沈んでいってしまったらやはり相手のためにならない。

家族や友達といった「寄り添うこと」が重要な状況ならともかく、リーダーやコーチとして関わっている時は期待されている役割がある。共感疲弊は仕事をする中での不可避の副産物ではあるものの(メンバーやクライアントの気持ちに耳を傾けたり、それをもとに関わり方を考えることは不可欠だから)それに足元を掬われないようにするセルフマネジメントも大事。

コーチングのトレーニングをCTIで受けた時に、教えてもらった、クライアントの話している内容に対する向き合い方ともつながるな、と、思っている。以下はニューヨークのCTIでコーチングを学んだ時のメモより

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あえていうと、精神科医の人と自分が違うところは、「とはいえ、精神科医も人間です。ときには思わず涙してしまうこともあります。100パーセント共感しないということはあり得ませんし、やろうと思ってもできません。」と、こちらの感情が大きく動かされることがあった場合、コーチやリーダーの立場であったら、「あなたの話を今聞いて、こういう気持ちになりました」とフィードバックを伝える機会がある、というところだろうか。多分精神科医の人は立場上そういうことを患者さんには言わないだろうから。

そして、一人一人違う

また、以前書いたように、物事の感じ方は人それぞれで、おそらく共感疲労の溜まりやすさや気分転換の早さなどもきっと一人一人違うのだろう。

過去エントリー:「解像度高く」他者を理解するきっかけとなるツール4つ

我が家には共感疲労がたまりにくく、気分の切り替えが比較的早い自分と、真逆の彼ではソーシャルメディアのフィードに流している情報も、netflixなどでみたいとブックマークに追加する番組なども大きく異なっている。

一人一人が、自分の心にとって必要なもの、必要な環境が何かを理解し、その都度自分の心のケアを意識しながら情報や他者と関わっていくということが大事なんだろうな、と改めて思ったりする。

そんなことを、ウクライナで起きていることに想いを馳せながら考えたりする2022年の3月。

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