Tomoko Matsukawa 松川倫子

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セラピーなのか、コーチングなのか

今年の10月から、コーチングを学び・実践演習するプログラムに参加している。

体系的に学ぶのは4年ぶりで2回目になる。

前回の2019年と同じように、参加しているのは英語のプログラムなのだけれど、前回とは以下の点が異なっている。

  • 今回は全部の体験がオンライン

  • プログラム提供者は、前回は業界大手のCTI(日本ではコーアクティブとして知られている)であったけれど、今回は「ニッチプレーヤー」の一社であるUpbuild社

  • CTIでの体験は自分で複数コースを順番に取るスタイルだったので、連続で顔見知りがいるときもあれば、初対面の人がいるときもある、という感じだったのに対して、今回は受講仲間の20数人の仲間が最初から最後まで半年間ずっと一緒のcohortモデル(参考:オンライン学習の新しい潮流としてのコーホート・ベース・モデルのオンライン講座(Cohort-Based Courses:CBCs) 日経COMEMOに市川さんがまとめている)

  • また、完全にコーチング初心者だった前回と異なり、今回はコーチングをクライアントに提供するという実践をある程度積んだ上で参加している、という点

そのプログラムに参加している他の受講生が質問していた「セラピーとコーチングの違いは何なのか?受ける側はどちらが必要か、どう判断するのか?」といった質問について、私自身周囲に聞かれることも少なくないので考えていることを整理しておこうと思いこのエントリーを書いている。

ちなみに、私は脳神経や精神医学におけるトレーニングなどを一切受けたことのない、「大人の学び・成長・変容」畑の普通の人間なので、ここに書かれていることは私の限られた知識と主観が混ざっているもの、と理解した上で読み流していただきたい。

両方とも最終的なゴールは似ている

ちなみに私の周りにはこういう人たちがいる。

  • コーチもセラピストもつけている友人

  • セラピーを過去受けていた、今は受けていないという状況でクライアントになってくれた人

  • コーチングのクライアントで、途中一旦私とのセッションをお休みし、セラピーを受けにいった人

そんな人たちをイメージしたりしながら、自分が考えるセラピーとコーチングの関係はこんな感じ↓。

つまり、「ここが二つの分岐点」ってクッキリした場所があるのではなくて、セラピーのセッションに少し「コーチング的な要素」が入ることもあったり、または、逆も然り、というような関係性。(とはいえ、後述するように両方の違いがあることを理解することは大事)

セラピーであれ、コーチングであり、

  • その機会を検討している人は「現状とは違うところにいきたいな」という気持ちを(明確に、または、ぼんやりと)持っていて

  • その背景には「今とは違う状態になりたいな」という自分の声に耳を傾けるようになった、とか、またはそんな声を無視できなくなった、とかがあって

検討の入り口に人は立つ、と思っている自分は、

セラピーもコーチングも、そんな「さてさて、この状況に向き合いましょうかね、よっこいしょ」となっている自分自身を、応援・サポートしてくれるものとして調達するもの。そんなふうに捉えている。

セラピストが説明する二つの違い

そんな感じで、セラピーもコーチングも、最終的には自分が元気にイキイキと自分らしく過ごせるようにサポートしてもらうものなのだけれど、とはいえ、山頂に向かう入り口は違うし、登り方も少し違う。

いくつか調べてみた中で比較的しっくりきている分け方はこちら。ソースはコーチではなくセラピストのポッドキャストエピソード(彼女は米国で活動しているセラピストらしい)。

彼女によると

セラピーは「generally speaking, help you progress from a place of crisis, trauma, or difficulty coping with emotions that is negatively affecting your day to day function - relationship, work, or daily functioning」であり、セッションでは、主に過去と現在にフォーカスが当てられることが多いものであるという。そしてセラピーの目標は、クライアントを「a place of struggling to cope」にいる状態から「the skills to be able to cope difficulties and stress on their own」を身につけた状態に行けるようにサポートすること、と説明されている

コーチングは「generally speaking, help you achieve a specific goal and provide you with an experienced partner in the process, that provide guidance and accountability.」であり、セッションでは、主に未来と(そこを起点とした)現在にフォーカスが当てられることが多いものであるという。そしてコーチングの目標は、クライアントを「feeling stuck」から「achieving their goals, getting them out of comfort zone, getting unstuck, maximizing their potential」な状態に行けるようにサポートする、と説明されている

セラピーを「卒業」してからコーチングに行くこともあるし、同時に受けることもある(その場合は担当セラピストと担当コーチそれぞれに許可を与え、両者に情報共有してもらうことを検討してもいい、とも)、とも言われていた。

セラピーは過去で、コーチングは未来、というシンプルなものではなく、ニュアンスを含めて説明してくれているのが自分は結構腑に落ちるものだった。なぜなら本当に効果のあるセラピーは、受けているその本人の「今」の過ごし方であったり、これからの未来につながる意識や行動の変容につながるものだし、本当に効果のあるコーチングは、自分の現状や未来につながる行動パターンの背景にある過去からの積み重ねを振り返ったり「成仏させる」ような関わり方があったりするから。

だからこそ、セッション中にどういうことが起きるか(山の登り方)だけだと、簡単には二つを見極めるのは難しいので、やはり今自分にはどっちが必要なのかな?を考えるには、彼女がいうように「今自分はplace of crisis, trauma, or difficulty coping with emotionsかどうか」にある、のだろうな、とも私も感じたりする。(自分で客観的に判断できるかは、なかなか難しそうではあるけれど)

実際、コーチングは未来のことを描いたり、前進することを語ったりする時間もあるので、エネルギーを結構消耗する。今はreadyじゃないかも、という時はしっかり自分を整えることを優先するのが大事、そんなことを思う。(未来のことを考えるエネルギーを貯めるために自分を整える、そのために何をしたらわからないから話してみる、というコーチングはありかもしれないが、あくまでも上記に紹介したように、日常生活に大きな支障が出ていないことが前提になる)

今自分の日常生活のあり方や、仕事への向き合い方で「これ、普段の自分と違うかも」というサインがでていないだろうか?それは、どのくらい前から起きていることだろうか。

または、そんなことを落ち着いて考えられないくらい心身が疲弊していないだろうか?

といった問いに向き合うのがいいのかもしれない

「どっち」に加えて、「誰と」の試行錯誤も必要

また残念ながら、属人性が高い世界なので、担当者との相性というものもある。

セラピーもコーチングも、一般的な口コミがあてにならない部分も多い。実際知り合いでセラピストにかかったら悪化した、ということでそのあとセラピスト嫌いになった人もいる。もちろん逆のケースで、コーチングを受けた体験がいまいちで「あーいうの、自分はいらない」と結論つけた人もいるだろう。

なので、最終的には、セラピストであれコーチであれ、どういう関わり方をできる・してくれそうな人か、実際に関わってみた時に自分はどう感じるか、この人と話すことによって現状を変えるきっかけになりそうだな、という自分の直感・感覚みたいなものを信じることが大事になる。

自分のお気に入りのヘアサロンや鍼クリニックを見つけるのにちょっと試行錯誤が必要なように、今の自分に必要なのは何なのか、どういう人と合いそうか、ぜひトライしてみてほしい。イマイチかも、と思ったら勇気を持って担当を変えてほしい。時間とお金は有限だし。一昔前よりはトライアンドエラーをする敷居も低くなってきている気がするし(無料で体験セッションをしているコーチも多い)。

提供側が知っておくべきこと

あと、コーチングかセラピーなのか、の論点で重要なのは「境界線がひきにくい=適当に混ぜていい、ではない」ということ。そして受け手が意思決定をする上で必要となる情報の説明責任を持っているのはサポートを提供する側だということ。

(雑な例えではあるけれど)整体師が鍼師のフリをしてはいけないように、サポートする側は、自分がどこからどこまでなら対応できるのかを理解していることは重要だし、一見似たような技術を持っているからといって、本来は「専門的にトレーニングを受けた人」にバトンを渡すべきタイミングに直面したにも関わらず、自分でなんとかしようとしてはいけない。

クライアントに対して自分が約束できること、約束できないこと、の、自己認識をしっかりしていること。相手に対して、真摯にコミュニケーションをすること。コーチングを提供する側の責任だと思っている。

少し古い記事だが、2002年の段階でハーバードビジネスレビューがThe Very Real Dangers of Executive Coachingというタイトルの記事も出している。

“Sadly, misguided coaching ignores—and even creates—deep-rooted psychological problems that often only psychotherapy can fix.” - 上記記事より

コーチの認定協会(ICF - International Coaching Federation)が、いつセラピストや精神科医を紹介した方がいいかの見極め方といったコンテンツを発信しているのもそういう背景があるのだろう。コーチングが普及していく中で色々とリスク管理が必要なパターンに対する知見が業界としてたまっているということなのかもしれない。

コーチとして気をつけるべき、クライアントの様子(ICFの「クライアントにセラピーを紹介する際のポイント(Referring a Client to Therapy)」より)

Marked changes in mood such as irritability,anger, anxiety, or sadness

Decline in performance at work or school

Withdrawal from social relationships and activities

Changes in weight and appearance, including negligence of personal hygiene

Disturbances in sleep (either oversleeping or difficulty falling or staying asleep)

Expresses hopelessness or suicidal thoughts

最近、コーチ向けのメンタルヘルスに関するオンラインコースを受講したが、鬱、不安症、躁鬱、依存症というものは、自分が思っている以上に多くの人が人生で体験することであるという認識を深めることが理解できたし、外からは一見分からない、いわゆるハイパフォーマーな人たちにもよくありうる、というデータやメッセージも色々考えさせられた。

過去エントリー:「コーチのためのメンタルヘルスリテラシー講座」での気づきの一つ - 2023年2月

コーチングのクライアントとなる人は、担当となるコーチに「あなたはセラピーとコーチングの違いはどのようなところにあると思いますか?」を事前に聞いたり、「コーチングじゃなくて、セラピーを受けたほうがいいと途中で思ったら、はっきりとフィードバックしてくれますか?」と伝えてもいいんだよ、そんなことがもっと広がってもいいのではないか。

コーチングの裾野の広がりを日本語圏でみながらそんなことも思ったりする。

最後に参考情報として、経験豊富で尊敬する友人のnoteの記事をいくつか共有。彼女のプロフィールはCoachEd(コーチェット)代表取締役/cotree創業者/エグゼクティブコーチ/システムコーチ 。


コーチってどういうふうに探すの?と思っている方は

  • 知り合いにコーチングを受けたことがある、という人がいれば聞いたり、

  • 日本語でCTIでコーチ認定された人の一覧を活用したり、

  • 様々なプラットフォームに登録しているコーチを自分で検討してみたり、

  • 私自身も素敵コーチを何人も知っているので「こういうコーチ知ってる?紹介してほしい」があれば(特に海外で生活する・バイリンガルで、などが可能なコーチの知り合い多し)こちらからメールで聞いてください+一応自分もセッションしてます→ 問い合わせフォーム

必要なタイミングで素敵なセラピスト・コーチとの出会いがありますように。