Tomoko Matsukawa 松川倫子

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競争優位性のある組織をデザインするための「整合性モデル」

このブログでまだ書けていませんでしたが、2022年の8月末より、久々の学生生活を送っています。

通っているのは、ニューヨークにある公立大学であるBaruch Collegeのビジネススクールで、そこの「人財マネージメント(HRM)」の2年修士プログラムです。

そこは、フルタイムで仕事がある人を想定した構成になっていて、10人のクラスメートと共に過ごすcohort-based形式のExecutive Master Programです。取得する学位はExecutive Master of Science(EMS)(プログラムのページ)

10年以上前の教育学修士(Masters of Education - M.Ed.)の時に比べると、今回は、プログラムの特性も学校のタイプも、自分のライフ・キャリアステージも、全く違う経験。

このタイミングでのニューヨークで生活する中での学費出費は結構キツイですが、色々な理由もあり、今のタイミングで学生ステータスに戻るという選択をしました。

そのプログラムは3ヶ月1学期という区切りになっていて、各学期二つの授業を履修する構成になっています。昨年の秋〜冬にあった第1学期では、この修士プログラムのキックオフとしてふさわしい以下の二つの授業を取ることが決められていました。

  • Managing People and Organizations(組織と人財のマネージメント)by Professor Kern

  • Human Resources(人事)by Professor Dilchert

今回はそのKern教授の授業の内容をきっかけにしたエントリー。

Strategic Alignment(戦略的に整合性があること)

全11回の講義の初回のタイトルに使われていたstrategic alignmentというフレーズ。

talent development(人材開発)の文脈でもよく聞くものですが、「組織と人財のマネージメント」の授業全体の骨子として、これをKern教授が一番最初に強調していたのが印象的でした。

補足:例えば人財育成でいうとstrategic alignmentは以下のような文脈で使われたりします

研修を含む様々な施策といったhowは、組織として期待する人財像whatにどう繋がるのかの視点が大事だし、その人財像は組織が社会に提供する価値や組織の成長の先にある「ありたい姿」といったwhyとの整合性も大事。

また、研修を含む育成の仕組みのインパクトの最大化を考えると、本人のみならず成長を支援する役を担うマネージャーの役割定義や評価制度とのつながりを意識した導入のほうが効果は出るし、そもそも誰を育成するかの意思決定の視点や、そもそもその組織に人を採用するプロセスのデザインやオンボーディングのあり方がどういうものかにも意識を向けていきたい・・そんな感じで全体を考えながら人財育成におけるhowのことを考え流時にstrategic alignmentを意識する、と言ったりします。

要は、さまざまなピースが全体として戦略的に繋がっていることが大事だから、その視点を持ってそれぞれのピースに関する意思決定をしましょうね、と。

そんな概念を伝えるために教授が引用していたのがTushmanとO’ReillyによるCongruence Approachを「参考にした」図でした。ソースは”Winning Through Innovation”という1997年に出版された書籍の2002年版のP59にあるらしい。

授業のスライドは教授に著作権があるので、そのままの再現はしませんが、その図を分解したものをつくってみました。

組織が戦略的に整合性を持つとはを表した「整合性モデル」Congruence Approach

まず組織にとっての「インプット」があります。環境、リソース、戦略、アイデンティティ(MVV ミッション・バリュー・ビジョンのようなものをイメージしてもらえると)そして、アーキテクトとしてのリーダーの存在。

そして、組織にとっての「アウトプット」。

で、そのインプットをアウトプットに転換するプロセスでさまざまな「Organizational Components(組織における各要素)」が作用してきますよということが表現された図でした。

授業で見せられたのはインプットー組織の中にある要素ーアウトプットが合体したもので、かつアウトプットや真ん中のOrganizational Componentsからインプットに向かって矢印があったり、かつアウトプットからOrganizational Componentsへの矢印があって、相互にフィードバックを与え合う関係性だとイメージしていただければと思います。

ちなみにこのTushmanとO’Reillyは、日本語にもなっている「両利きの経営 - 『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く」(邦訳は2019年出版、英語のタイトルはLead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma)の著者たちです。O’Reillyは「両利きの組織をつくるーー大企業病を打破する「攻めと守りの経営」(邦訳は2020年出版)も書いています。

参考:今こそ「両利きの経営」が切実に問われる理由 | 東洋経済 2020年5月

参考:「両利きの経営」は知識創造論ではなく、組織進化論である──組織カルチャーとリーダーの役割とは?|Biz Zine 2020年8月

注:微妙に私が勝手につけた日本語意訳と「両利きの組織をつくる」の邦訳の中に入っている図表の表記は異なっています。

他の文献を遡ると、別にこのCongruence(整合性)を強調した思想はもっと前からあって、Tushman(タッシュマン)教授がNadler(ナドラー)教授と1990年代に書いた「Competing by Design」(邦訳「競争優位の組織設計」)の時からもあったようです。

Kern教授が強調していた「組織デザインにおけるstrategic alignmentとは、これら3つのパートが整合性を持って連携できるように舵取りをすることが大事ですよ」ということは「タッシュマンのモデル」と呼ばれるほど有名な概念だったらしい、ということを今回知りました。

「経営者は、策定した経営戦略を確実に実行するためには、それに適合(整合)した組織携帯をデザインしなければならない」- タッシュマンのモデル群 ー戦略的組織デザインから、組織変革、イノベーション経営まで一 by 国士舘大学 経営学部経営学科 の三浦教授の論文より

ちなみに、ナドラーとタッシュマンのモデルは歴史が長いせいか、Google imageなどでも “Nadler-Tushman Congruence Model”と検索するとたくさん出てきます。

ナドラーとタッシュマンのモデルとKern教授が見せてくれたものは大きくは変わっていないのですが、インプットの部分に「Leader as Architect」とあるKern教授のバージョンが個人的には好きです。

ダイナミックでオープンな世界

ダイナミックに絡み合っているパーツ、かつパーツも全体も、それぞれが周囲で起きたこと・自分で起こしたことの影響を刻々と受けていくという組織という生き物。システム思考というキーワードが頭をよぎります。

海の波のような、常にダイナミックに動いていて、相互作用の中に置かれた世界で沈没せずに行きたい方向に向かうためには、いろいろなことを意識しながら微調整して進むことが大事ということを改めて考えさせられるきっかけとなるモデルだな、と感じます。

関連エントリー:アトピー対策にシステム思考を応用すると(これ書いた後に結局一番根本的に効いたのは鍼治療だったというオチ)

関連エントリー:2020年6月にニューヨークで思うこと(#BlackLivesMatter再燃の中書いたこと)

インプット側にある外部環境、戦略やリソースに関する事だけでも無限に意思決定をしなきゃいけない中で、組織という船の中のことにも意識を向けなきゃいけないという複雑性に圧倒されますが、だからこそ、アーキテクトとしてのリーダー育成の世界は面白いし、ビジネスにおける組織・ヒトの世界は面白い、そう思います。

私は2010年に金融業界から人財育成の世界に入ってからずっと組織の外の人としてこのことに向き合ってきましたが、今回のプログラムでの体験を通じて、もう少し中で感じるダイナミクスやベストプラクティスを学べればなと思ってます。

P.S. そしてご縁があればそういう仕事が卒業後にできるといいな、と思ってます - 2024年夏に向けて転職活動始めます😊

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