南場さんの「不格好経営」を読んで

怒涛の二週間出張(Quipper勤務スタート)が終わり、ニューヨークに戻る機内で読みました。南場智子さんの「不格好経営―チームDeNAの挑戦」。飛行機離陸直後に読み始め、最初から終わりまで一気に読みました。

英語のサブタイトルは leading a bumpy journey

湿度が著しく低い機内でひたすら読み続けたせいか、「謝辞」に辿り着いたころにはすっかりコンタクトが乾燥していて、「そろそろ目薬使おうかな」そう思いながら読んでいたときのこと。「自信をなくしてへこんだときに〜夫のおかげで仕上がりました。ありがとう」の部分を読み、その後に続いていた「アシスタントの原千佳さんが電車で原稿を読んで号泣した」を読んだとき、思いがけずここの部分でふと涙が出そうになり、そんな自分に自分自身が驚きました。

最初から最後までこの本はジェットコースターに乗ったような展開で、笑いあり、驚きあり、共感あり、の、早いテンポでざくざく刺激が頭に届いてくる一冊となっています。そのように、全体的に「あたま」の部分に刺激的なストーリーがいっぱい届いてくる本ですが、最後の、ゆっくりスピードを落として行く過程において、全てが自然とまとまってきて、読み手の「こころ」に何かがじわっと届いてくるのです。ちょうどこの「謝辞」のとこらへんで自分の中でその「じわっ」が起きたのかもしれません。

南場さんが、DeNAという会社をどれだけ愛おしく思っているか、それと同じくらい同社の今までの軌跡に関わってくれた人達一人一人のことを好きでいるか、感謝しているか、それらが最後に最も強烈に読み手側に伝わって残る一冊となっています。出張帰りの機内では結局このブログの下書きを含め一睡もできませんでしたが、自分にとって、とても良いタイミングで出会えた一冊だったなと思いました。それを読んでいた時に自分が思ったこと感じたことを例のごとく長いのですがまとめました。

まったく何も知らなかった自分

読み終えた今、改めて言うのも恥ずかしいのですが、もともとソーシャルゲームをやらない+テレビを見ない+野球を観ない私にとって、DeNAという会社のことを自分は実は何にも知りませんでした。7年ほどの社会人人生においてあった数少ない接点は、未成年者向けサービスの規制に関するニュースが出て同社の株価が下がり続けた時期に、その頃担当していた機関投資家の方々に「悪材料が出尽くし、buy on weaknessすべきタイミングはいつだと思うか」という質問を受けたくらい。

その後2010年に金融の世界を去り、しばらくして南場さんが旦那様の介護のため社長を退任するというニュースを知るまでは自分の頭の中にDeNAという会社名が出てくることはおそらく一度もなかったような気がします。当時自分が在籍していたグロービスも「創業者=社長」という企業だったので、南場さんのニュースが気になったのだと記憶しています。

とはいえ、この時期、自分もキャリアとプライベートの両立の可能性を模索すべく大学院留学計画を進めていたころで。またしばらく同社のことが自分の中で遠い存在となっていきます。

そして時は流れ、大学院を無事卒業した今年の夏、その南場さんの本が出版され話題になっているのを知ることとなります。この本を読んだ友人たちの間で話題になっているのを知りつつも、8月の日本帰国時に書籍購入する機会を逃してしまいます。

そんな感じだったので、南場さんやDeNA社のことはおろか、この本に登場する「ナベ」= Masaさんがどういう方と見られているか、ほぼ何も理解しないまま、Quipperへの転職を決めてしまいました。グロービス入社前はもう少し堀さんに関する事前リサーチをしたものです。だんだんと図太く?人間はなっていくのかもしれません。(Quipperに転職するきっかけとなった「お茶」があったのが日本出国前日だったということ、また、ニューヨークに戻ってからが色々忙しかったというのもあります)

「ナベ」= QuipperのMasaさん

そんな娘の事を知ってか知らずか、たまたま南場さんの本を読んだ父からQuipper勤務初日前に「渡辺さんという人物に関する情報4点」がメールで届きます。ふむふむ、なるほど参考になったよ、お父さん、ありがとう。という返事をした上で、ま、直接(1時間半ほど)会ってるし、とリラックスした気持ちでオフィスに向かいます。

ロンドンに滞在して、Quipper Londonオフィスにいた10日間。一体どのくらいの時間をMasaさんと過ごしたのでしょうか、私・・・。平均して最低毎日3時間。Masaさんとマンツー。多い日は二人きりの時間が5時間くらい。ものすごい頭の回転が早く、南場さんの本にあったように「多弁」な方。そんなMasaさんと一緒にいる間は、Masaさんが鼻をかんでいる時間(それもスピーディーに行われる)以外は、道を歩いている時もご飯を食べている時も常に自分の頭をmax回転にしていなければついていけない雰囲気があり、終業時間の頃には汗で顔はテカリ髪はボサボサという日が続きました。

これってベンチャーでは普通のことなのか??と思いながら他の仲間にコソッと聞くとやはりMasaさんはかなり頭の回転が早いと認識されている模様。で、南場さんの本を読んでそういった事が書かれていて(p18『若いながらマッキンゼー随一のリサーチ力を誇り、身体も口もよく動く』, p20『自称超優秀で自分よりすごいヤツが見つからないナベ』(笑), p113『要所要所で抜群の構想力を発揮してDeNAを支えてきたナベ』)・・「あぁやっぱり」と思わされました。

もう少し事前にこれを意識していればもう少し心の準備というものがあっただろうに、と、自分の間抜けっぷりに笑えます。(※ちなみに他のメンバーもかなり頭の回転が速いのでミーティングが立て続けであるとかなり消耗されていきます。6時退社時はヘロヘロ。ここらへんアキュメンと似ています)

でも、Masaさんとみっちり一緒に働いた後だったからこそ、この本を読んでいてツボにハマった箇所もありました。p32『ナベちゃんだけがニコニコ、というかヒラヒラ舞っていたような気がするが、どちらかが気がふれていたのだろう』とかp44『褒められるのが大好きなナベ』は南場さんから見えていたMasaさんのイメージが想像できて一人でプププと笑い、ダイエットコンペで早々にリタイヤした話とか、p88にあった写真も、既にメンバーから聞いていたので「ほうほう、これが」という感じで一人で機内でニヤニヤしてしまいました。

あと、面白いと思ったのが10日間の間かなりの密度で接点を持たせていただいたMasaさんから浴び続けていた彼の事業/経営に考え方が南場さんの書かれていたこととものすごく似ているところ。これは南場さんとMasaさんが共同創業者仲間だったので当たり前かもしれないと思いつつもそこを何度も思いました。

例えばp100『つくり手自身がユーザーにとっての面白さや使いやすさを考えながらプログラミングしていく方式』を取り入れているところとか、p204『迷いのないチームは迷いのあるチームよりも突破力がはるかに強い』という考えを信じているところや、『充実した情報に基づく、ゆっくりとした意思決定よりも不完全な情報に基づく迅速な意思決定』を尊重するところ。p211にあるように『人についていく』で入社した人がいなくて、そういう社内の雰囲気も薄めなのもDeNAとQuipperは似ている、そう感じたりもしました。(私もMasaさんにをはじめとするQuipper社の何人かを見て「一緒にやりたいな」と思って入社を決めたけれども「ついていきたい」というのとはちょっと違うのです)

南場さんが書いてあったp101-102のネットビジネス特有の凄さや、p132の「真の競合は『ユーザーの嗜好』」のところも今回自分がMasaさんから教えてもらった新しい考え方。教育にテクノロジーを利活用する、という世界にも関係がありそうな「今後も新しい問題は必ず起きる・・問題を起こさないようにびくびくするよりも、新しい問題にアンテナを張り巡らし、積極的にユーザーや社会、行政と対話しつつ柔軟に対処し続ける姿勢と能力を持つこと」(p187-188)という考えも印象的でした。

「言う人・手伝う人」から「やる人」へ

「言う人、手伝う人」から「やる人」へ南場さんご本人がdrasticにシフトされたあとの壮大な冒険記という印象の今回の本。まさにちょうど「やる人」側に転職したばかりの自分の手元に今この本があることに一人で勝手にご縁を感じています。

GS時代、自分は完全に言う人側にいた人間。そこから少し出たくて転職を考え始め(消費財のマーケ職などを模索した)縁あって辿り着いたグロービスで「言う・手伝う」5:「(学びの場を)つくる(それでも講師ではないので「やる」とはちょっと違う)」5の割合、大学院の後ひょんなことで働くことになったアキュメンでは「言う・手伝う」3:「学びの場をつくる・届ける」7といった感じ。これからQuipperではどんな比率になっていくのでしょう。

人数も少ないので色んなことをたくさん同時にいろいろな人と協力してつくっていかなければいけないです。それを考えると適度な緊張感とワクワク感を覚えます。今回デベロッパーさん達の凄さも目のあたりにすることができました。毎日毎日あんなスピードで新しいことを形にしていく魔法使いみたいな彼らと一緒に働けることもとても恵まれていることだなと感じます。

これから色々な波があったり、壁にぶつかることがあったとしても、皆で乗り越えていくことで、DeNAで南場さんが「忘れない一日となった」と書いてあったような瞬間を私達も積み重ねていけたらいいな、と感じます。

南場さんという人物

と、色々思いながら読み終えたこの本ですが、最後一番気になっていることは南場さんという人物についてです。実は動画もまだ一度も拝見してないので、今の時点でのイメージはこの書籍にあった情報のみで私の頭の中に出来上がっている南場さんという人物像。「負けず嫌いの頑張り屋さん」で、おそらく「素直で頑固/頑固で素直」系の方。

「ひとつの事業で曲がりなりにも通用する人材になれた」と思えたことが転機になったキャリア初期、「今を起点にベストを尽くす」という考えを持ち、「選択に正しいも誤りもなく、選択を正しかったものにする行動力があるかどうか」というマインドセットで行動力いっぱいの方。女性としての章に書かれてたこともとても自分の価値観に近いし、社員や家族に関する考え方や最近取り組まれているというテーマもいいなぁと思わされます。

とはいえ、お父様との関係とか、「苦しい時ほど魅せ場」と思うことのできるガッツ、そして時に「机を叩きつける」ことがあるくらいの熱さなど、自分にはまだまだ想像できていない側面もたくさんありそうだとも感じます。なんせ、マッキンゼーでパートナーまでなっている方。ライブで見る南場さんはおそらくこの書籍から伝わってきたイメージに更に新しいレイヤーが加わった方なんだろうな、今まで見て来た様々な「女性リーダー」と言われる方々とはまた違ったロールモデルを見せてくださったような気がします。

と色々なタイミングがぴたりとあった今回の南場さんの本との出会い。読めて良かったです。Masaさんありがとうございました :-) (余談:100キロ体重があった時代もあったというMasaさんに「Tomokoの良いところはよく食べるところだ」とお褒めの言葉をいただきました。とはいえ個人的にはQuipperで「激やせラリー」が開催されることがないようにしたいと思っています)


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