2013年はMOOCにとって面白い年でした

盛り上がり一辺倒だった2012年。色々な意見と動きが出て来た2013年

日本でもMOOCの話題が増えてきたなぁ、と感じた2013年。アメリカでは2012年に異常なブームが来た後の、「想定通り来たね」って感じの次のフェーズに入ったMOOCでした。

MOOCに関してはいくつかバラバラとエントリ-を書いていましたが(最後にリストしました)それとは別に、3月のResnick教授のMOOCのエントリ-に入れていたSXSWedu 2013の動画「MOOCS Hype or Hope?」の3分動画を再掲します。



色々なメディアが今年の教育業界の振り返りを発信していますが、自分が一番気になったのはHack Educationの恒例の「2013年のEd-Tech Trends」のトップ10の記事でした。広告などを一切載せない、内容もとても充実しているメディアです。その今年のTop10の4つ目にあったのが「MOOCs and Anti-MOOCs」というエントリ-。そのタイトルが今年の一年をMOOC的によく表していると感じた年でありました。

EdXに夏に就職した友人とも先日話していたのですが、2013年はMOOCのことを初めて知った人が世界中に増えた年でもあったと同時に、2012年に盛り上がっていた人達が一旦クールダウンした年(NYTの12月11日の記事とか分かりやすいトーンです「After Setbacks, Online Courses Are Rethought」)、最初のプロトタイプのフィードバックや結果が手元に戻ってきたのでそれを元に改善バージョンを前に進めた人達が出て来た年(Education Newsの12月17日の記事「MOOCs Learning From, Adapting To Early Struggles」)、EdXやCourseraなど以外のMOOCプレーヤー/オンラインの学びを提供するプラットフォーム屋が大量に台頭してきた年だと感じています。

絶対数としてはおそらく「初めてMOOCというものを知った人」のほうが多かったのでしょうが、2012年から見てた自分としては「どんどん多様になってきたな」という少しづつワクワクを感じられるような1年でした。(むしろ天の邪鬼な自分は2012年のMOOCブームの時はやや冷ややかに見てた部分もありました)

MOOCという単語でひとくくりにできないほどオンラインラーニングの多種多様な機会が飛び交うようになり、どこからどこまでがいわゆる「MOOC」なのかも分かりにくくなった年と感じます。きっとこの流れは更に続いて行くと感じます。

そんな中、自分は今年見聞きしたMOOC系の話題を大きく二つに分けて吸収していきました。(基本的に自分が見ているのはHigher Education以上、大学/大学院/社会人学習(企業内外含む)を対象にしたトピックです)

その①:MOOC(アカデミック寄り)- ある分野の知見を深めたい人向け。書籍代わり、教育機関の学習体験の補完用

MOOCというカテゴリーに現在含まれるとされているコースの検索(若干アカデミック寄りのトーンの強いコースという位置づけ)は以下のサイトが便利です。個人的にはこれらに載っているコースはxMOOC(過去のエントリ-参照)で、かつ教育機関(または彼らの関連組織)が提供しているものと理解しています。なのでややアカデミック色が強いという印象です。(もちろんより実践的なものもありますが)

ここにあるソースはたとえば大学、大学院の予習/復習に使うとか、学位そのものに興味があるというよりは働きながらとある分野の知識を深めたいという人、在宅を含め物理的な制限要素があるけれども学び続けたいという人にとって重要なリソース元になると信じています。ただし、これらは学習意欲やコミットメントレベルを自分で保つ必要が少なからずでてきます。先日EdXの友人と話していたら現役引退後の「今まで興味があったけれど時間もリソースもなかったから学べなかった、今とても楽しく学んでいる」層も少なからずいるようで。特にEdXのコースでも文化人類学のクラスはものすごい人気だったとか。
CourseTalk(2013年年12月末時点で以下のプラットフォームのコースが掲載されている:Canvas Network, Code School, Codeacademy, Coursera, Ed2Go, edX, Iversity, k-12, Khan Academy, Lynda, MRUniversity, NovoEd, Open2Study, Treehouse, Udacity, Udemy)
ClassCentral(同上:Coursera, Udacity, EdX, NovoED, Canvas.net, Open2Study, iversity, Futurelearn)
Knollop(同上:Coursera, MIT OCW, Udemy, Yale OYC, EdX, Udacity, Khan Academy, Harvard Open Learning Initiative, Codecademy, Canvas Network, Code School, Complexity Explorer, iversity, NovoED, Open2Study, Lynda, 10gen Education)
CourseBuffet(同上:Coursera, EdX, FutureLearn, Iversity, NovoEd, Open2Study, OpenupEd, Santa Fe Institute, Saylor, Udacity)
最近日本語ではリクルートがこういうサイトを作ったようです(「EDMAPs - MOOCsのニュースと講座情報を紹介するメディア」)もっと前からある、英語のこちらもオススメです(「MOOC News and Reviews」)。

Khan Academyが過去1年ちょっとの間に大きく進化しているのと同様に、MOOCプラットフォームも今後もっともっと進化していくことが想定されます。(特に2013年は2011年〜2012年に行われていた各種MOOCの取り組みの検証+改善フェーズに入ったところが多いので)また周辺エコシステムプレーヤーも同様に進化していくと思われます。そういうのが気になる人は上記マニア向けサイトから情報収集してもいいかもしれません。

ちなみに、日本語で飛び交っている情報は有名大学ものMOOCが大部分を占めているようですが、Open2Studyといったオーストラリア発のもの、iversityといったドイツ発のもの・・・他にもカナダ、イギリス、ブラジルなど世界発のMOOCプラットフォームもあります。米発のコンテンツは背景思想や前提となる考え方がやや米寄りに偏る傾向があるかもしれない、という考えをもちながら、多面的に様々なインプットを活用することが学びを深める道につながる気もしています(受講生の多様性も異なる気がしています)。特にiversityなど欧州らしいクラスも展開していくようなので気になる人は要チェックです。

その②:MOOC(より実務/実践寄り)- 現場での体験とのセットとしての使い方

とまあ、アカデミック寄りの内容は興味のある分野の理解深化のために、やる気と自律心のある人には重要な話だと感じます。本を一人で黙々と読むのとは違った学びの手段。ラジオで英会話の勉強などを黙々と仕事の合間にしていくような真面目な人、学びが「仕事」となっている学生の身分にいる人や学ぶということに十分な時間が投資できる人向け。

一方で、そうではない形の「学び」、仕事などをこなしながら、走りながら学ぶ系の人間もこの世の中にはたくさんいます。仕事に体当たりしていく中で自分の学ぶ必要性を痛感する人達。自分も基本的にニーズが迫っていない限りあまり学習に時間やコミットメントを投資できない人間です。Nice to haveの学習ではなく、Must have的な学習ニーズ。

そんな私みたいな人間にも関係がありそうなMOOC/オンラインラーニングの選択肢がジワジワと増えて来た、そう感じた2013年でもありました。特に印象的だったのは以下の3つ。

気になった話題①:MOOC受講者と企業(営利/非営利団体含む)の課題を結びつけるCoursolveというプラットフォームの話(参考:Stanford Social Innovation Reviewの12月10日の記事「Online Learning: A New Source of Talent and Ideas」、5月11日の記事「MOOC-sourcing for Social Good」)研修を設計してよく言われたことは「使える」学びを、という話。それにはProject Based Learning(PBL)が有益な手法の一つであるというのはよく言われていることですが、それを上手くMOOCの文脈に織り込んだ画期的なアイディアを実現したもの。

Coursolve: Learning from the world, for the world
https://www.coursolve.org/

気になった話題②:そしてビジネス/実務的な内容をに重きを置いていた有料/無料両方のコースのあるUdemyの法人向けバージョン「Udemy for Organization」の台頭。昨年からMOOCのコンテンツにflipped classroom(反転授業)の概念をいれ、人事/育成部門が企業内の研修に応用してみた、という話は前から(とくに途上国の企業内での導入の事例など)ちらほらと出てきました。

Udemyはもともとビジネススキルを中心にしたオンラインラーニングのプラットフォームですが、最近は組織向け、かつ使い手(企業)側がコンテンツをつくることを可能にした機能を入れたりと、なかなか気合いが入っているサービスを正式にローンチしました。コースももともとのUdemyで拡大してきたものを上手く活用していて、ビジネス化がうまく行き始めているプラットフォーム屋さんのような印象を持っています。(これとlynda.com



気になった話題③:Courseraが学校の先生の職業訓練(Professional Development)を意識して特別展開を開始したという話。EdTechの勉強をしていると必ずぶつかるテーマであるTeacher Professional Development。先生という職業人ほど学びに対する意欲が高く(平均的にみて)時間投資をしてくれる学習者はいないと感じます(大変忙しい人生を送っているにも関わらず)。

そういう人をターゲットに「いつでも、どこでも、自分のペースで、自分が学びたいこと」へのアクセスを可能にしたプラットフォームの存在意義は大きいと感じます。Courseraのガツガツしたスタンスにはやや引いてしまう自分ですがここに注目しているのは素晴らしいな、と。この内容(CourseraのTeacher PDのページ)を早く翻訳して、該当しそうなコンテンツだけでも、早く日本の先生達に届けられるといいのにな、とも思います。無料だし。

それを元に先生のlifelong learningの場のワークショップをデザインしたりしても面白そう、と感じます(もう日本でしている人がいるかもしれませんが)

これから、特に人材育成/企業経営に関わっている人へ

冒頭に引用したHack Educationの記事にも「Despite the efforts of those of us who’d want to use more precise terminology, MOOCs and online education have been conflated. And online education doesn’t map neatly to Gartner’s Hype Cycle. 」とあったように、Hype Cycleが綺麗に描かれることがない世界だとは私も感じます。一人の人間の中でCycleがあったとしても、世界中の人間はそれぞれ違うタイミングでこのHype Cycleに入ってくるため、結果としてトータルでは注目度は高まり続ける世界なのでは、と感じます。

私達が一人一人が理解している「MOOC」は今後もっともっと多様化(目的、提供者、学びを届ける手法、言語、学びが提供される期間、人生の他の活動とのつながり)していくでしょうし、自分が話している「MOOC」が必ずしも別の人の認識しているものと一致していない時もすぐ来ることでしょう。

それぞれが自分のニーズに合わせ活用するリソース/手法の一つとして引っぱりだせるよう、学びの道具箱に入れておけばいいのではないかな、と思います。

ただ、その一方で、人材育成に関わる人達や、企業の経営に関わっている人達はもう少しこのMOOCのトレンドを自分事として真剣に考えるべきタイミングが来ていると感じています。

先日開催されていたらしいwebinarでは企業がMOOCを使う7つの目的として以下の7つが提示されていました。①Building talent pipelines(採用、最近はまだこれは上手くいってなさそうです)、②Onboarding new employees(入社してくる社員の育成)、③Self-directed developmentや④Workforce training(formal/informalな研修)、⑤Educating partners&customers(社外ステークホルダーの教育)、⑥Brand marketing(将来想定される顧客へのメッセージ発信)、⑦Collaboration and innovation(MOOCがxMOOCでなくcMOOC色の強い設計になっていた場合、たくさんのvoiceを吸収する上で有効)(ソース:Bersin  webinar recording on MOOCs for Corporate Training and Learning)(Udemy for organizations: Seven Ways to Corporate MOOC

ソーシャルメディアをPRやコミュニケーション(採用活動、顧客との対話など含む)のツールとして正しく利活用できているかということで企業間で格差が出て来ているのと同様、このMOOCという新しい生き物をどう利活用できるかは今後更に重要になっていくと感じます。なので人材育成に関わる人は「道具箱に入れておけばいいのではないか」といったのんびりした話ではなく、積極的に既存の道具箱に追加した上でこれからどうすべきか、と考え行動していくことが大事ではないかと思います。

新しい取り組みを前に進めることは勇気がいることですし、体力も気力も仲間も必要です。自分も気がつくとrisk averseになりかける傾向がよくあります。そんなとき、チームがマントラのように唱えている「If you were not embarrassed by your first product, you waited too long」(Seth Godin)を思い出すようにしています。全ての懸念材料を検証していたら後手に回ってしまう、ということも意識しながら。何はともあれやってみないと検証プロセスすら始まらない。MOOCも同じ、今後更にどういう進化をとげていくか、注目です。


後日談:EdXで働いている友達とUdacityの方向転換について話していたらとても上手くまとまった記事を思い出しました。SocialLearning.jpの11月26日の記事です。「本当に『オンライン大学は米国の教育危機を救えない』のか?

後日追記:edSurgeの"MOOCs in 2013: Breaking Down the Numbers"は良くまとまっている内容だと感じます。12月22日の記事。

後日追記:UFOによるInfographics、とても分かりやすいです。「Udemy (UFO) Infographic: Year of the Corporate MOOC」。1月7日の記事。

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