狭義の「Social Enterprise」そして「社会起業家」
友人が「Asian Women Social Entrepreneurship Seminar」の企画に関わっていることもあって、ふと、改めて「Social Enterprise」ということについて考えてみました。
Social Enterpriseという不思議なフレーズ
そういえば、去年SECON(Harvard Social Enterprise Conference)に参加した時、日本人の登壇者の方がこうコメントされていました
「Social Enterpriseっていう、欧米社会が作り出した呼び方にいまいち違和感がある。なぜならもともとビジネスというものは社会のためにあるべきものだから、socialでない組織なんてないのではないか、なぜ敢えて区切るのか」
日本で生まれ育った私は、そのとき、その方が言おうとしていることがなんとなく分かるような気がしたのを覚えてます。例えばキッコーマンは「おいしい記憶をつくりたい」会社だし、サントリーは「人と自然と響きあう」会社といいますし・・・。社会へポジティブな影響を生み出そうと思っていない会社のほうが少ないのではないかな、と。(パチンコの会社でさえ、広く考えれば雇用創出・維持という社会的インパクトがある・・・)
でも、Social Enterprise(営利・非営利問わず)を支援するベンチャーキャピタルで自分が働くようになって、自分達の文脈で使う「Social Enterprise」という単語は、もう少し狭義のものなのだと、うっすらと感じるようになってきました。
良く分からないけれど、何かが違う。もちろんビジネスの大小とは別の何かが。
確かに世の中のほとんどのビジネスは広義では「Social Enterprise」なのかもしれないけれど、冒頭のセミナーのような文脈や今自分が働いている業界で使われる場合、何かが少し独特で。その場合の定義は何だろう。
掲げているミッションが社会的インパクトを第一に持って来ているかどうか、であったり、社会的課題を解決することが目的で設立されたビジネスである、とか、成功の基準が従来型のビジネスとは異なる、とか今までも若干ふわっとした考え方はあったのだけれど、いまいち自信がない。
利益創出が手段か目的か
そう思って、調べてようと思い、発見したのがこのサイト(destinationchangemakers.com 今はアクティブではない)。
"Profit is viewed as a means and not a primary goal."...."to further their social or environmental goals." - 社会的・環境的な目的達成のための利益創出
"With social enterprises, business is viewed as the vehicle for social change. Whether structured as non-profits or for-profits, social enterprises are simply launched by social entrepreneurs who want to improve the common good and solve a social problem in a new, more lasting and effective way than traditional approaches. " - 社会的な変化のためのビジネス
この定義を意識して改めて考えると、確かにキッコーマンは「おいしい記憶をつくる」ために利益を創出しているわけではないような気がするし(株主の利益の最大化も意識するだろうし)、サントリーも「人と自然と響きあい」たいから利益を生む仕組みを回している訳ではないとも考えられる・・。完璧ではないけれど、この利益が手段なのか目的なのかという考え方、少し使えそうな気がしています。
この文脈で考えてみると、
グロービス(株式会社)は「ヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会に想像と変革を行う」ことがしたいから、それを続けるために必要なビジネスを仕組み化している会社であって(株式会社ではあるものの、株価最大化が目的になっていない感があり)、
Teach for Japan(NPO)は「次世代の教師にリーダーシップを、すべての子どもに、時代を切り拓く力を」習得するためのビジネスと考えると、上記の「Social Enterprise」定義内に当てはまるような気もなんとなくしてきます。
別のソースとして覗いてみたWikipediaでは、米国とその他地域の、定義の違いについて興味深いフレーズもありました。
The term has a mixed and contested heritage due to its philanthropic roots in the United States, and cooperative roots in the United Kingdom, European Union and Asia. In the US, the term is associated with 'doing charity by doing trade', rather than 'doing charity while doing trade'. In other countries, there is a much stronger emphasis on community organizing, democratic control of capital and mutual principles, rather than philanthropy. - Wikipedia
この用語は、米国における慈善活動のルーツと、英国、欧州連合、アジアにおける協同組合のルーツが混在し、論争を呼んでいる。米国では、この言葉は「事業活動をしながら慈善活動をする」というより、「事業活動をしながら慈善活動をする」ことと関連付けられている。他の国では、慈善事業というよりも、地域社会の組織化、資本の民主的コントロール、相互原理がより強く強調されている。-
また、どこからどこまでの個人を「社会起業家」と定めるか、に適する記事としてはStanford Social Innovation Reviewの「Social Entrepreneurship: The Case for Definition」という2007年の記事が興味深いと感じました。
Enterpriseであるということこと
さらに、友人にその後言われて確かに、と考えさせられたのは、Socialのみならず「Enterprise」という単語の運ぶ意味。
上記の社会起業家の定義に関するSSIRの記事でも、「Entrepreneurship comes first」(つまり、社会起業家はまず第一に「起業家」であるということ)とありました。対外的なアウトプット(顧客に対しても、投資家に対しても)になんとなく注目が行きやすいSocial Enterprise。
でも、そもそも継続的に、社員一人一人それぞれの人生を巻き込みながら活動していくスタートアップとして、組織マネージメント・人事総務系の話を疎かにしてはいけないことを忘れべからず。キャッシュフロー捻出できないと、人材を物理的にも精神的にもキープすることができなくなり、その組織に継続的に貢献してくれる優秀な人材なしでは、いかに素晴らしいアイディアも絵に描いた餅。
どんなスタートアップでも一緒ですが、継続的に実行できてこその話。震災後の東北で活動していたNPOが数年経って、経済的に回らなくなり、撤退・活動縮小した、という話は、シリコンバレーのスタートアップが事業継続できなくなって、閉鎖したという話を連想させます。だから社会起業家に求められる(従来の大きな組織が入っていかないような、リソースが少ない場所で大きなインパクトを出そうとするのだから)素質やスキルのハードルは高い。
過去エントリー:「ソーシャル・ビジネス、NPO」で働くということ
日本で目にするようになったのはいつから?
少しズレますが、前述の2007年(7年前)のこの記事に既に「The nascent field of social entrepreneurship is growing rapidly and attracting increased attention from many sectors.」とあったのに少し驚いたので、日本ではどうだったかな、というのもついでに調べてみました。
「チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える」が出版されたのは2005年
「社会起業家という仕事 チェンジメーカー2 」は2007年
ちなみにAcumenのブルーセーターの邦訳版を出してくれた英治出版、社会起業家やソーシャル課題を取り上げたものを多く出版してくださっているこの会社は設立1999年
ETICが始めていた社会起業塾イニシアティブは2002年から
社会イノベーター公志園は2010年から
日経ソーシャルイニシアチブ大賞は2013年から
第一回受賞はフローレンス、ケアプロ、Table for Two International、オンザロード、ほか。ファイナリストのリストをみると設立年は2000年代が目立っています。
第二回受賞はえがおつなげて、マドレポニータ、コペルニク、カタリバ、クロスフィールズ、気仙沼ニッティング、ほか
日経Bizアカデミーに「社会起業家インタビュー〜社会問題に挑戦するイノベーター達〜」が登場したのは2013年で(フローレンス、Change.org、大地を守る会、ARUN、ケアプロ、スワン、GOONJ、GRA、オーガッツ、Table for Two、BASIX)
日経ビジネスが「イマドキの社会学者、イマドキの起業家に会いにいく」で社会起業家の方々(HASUNA、クロスフィールズ、NPO法人グリーンズ)を含めた方々を連載し始めたり、「社会起業家のバトン」といったシリーズを始めたのは今年(2014年)
フローレンス設立者の駒崎さんが2013年の日経ソーシャルイニシアチブ大賞受賞時に書かれていたブログの内容がとても印象的です。
「本当に嬉しいです。しかし、嬉しいのは自分たちが受賞できたことだけではありません。ソーシャルビジネスそのものが、日経新聞に認めてもらえるくらい一般的になってきたことが、それ以上に嬉しいです。
フローレンスを立ち上げた10年前には、「事業によって社会問題を解決する」というソーシャルビジネスのコンセプトそのものが、ほとんど日本にはありませんでした。」- 2013年4月17日の駒崎さんのブログより
自分がこういう動きに対して全く無知であった10年以上前から、コツコツと押し車を前に押し進めてきていたこういう方々によって、社会のうねりというものは静かに、でも確実に、広がっていっている。10年という年月は長いようで短く、変化というものは起きていなさそうで実は確実に起きている・・・・・。考えさせられます。
".......It thrives on moral imagination: the humility to see the world as it is, and the audacity to imagine the world as it could be. It’s having the ambition to learn at the edge, the wisdom to admit failure, and the courage to start again. It requires patience and kindness, resilience and grit: a hard-edged hope. It’s leadership that rejects complacency, breaks through bureaucracy, and challenges corruption. Doing what’s right, not what’s easy." - Acumen Manifesto
まずは、今月末のアジア女性社会起業家セミナーの成功を遠い海の向こうから祈っています!冒頭に共有した友人のメッセージ。
I myself started business in Tohoku as an women entrepreneur, and I strongly believe that Japanese people have lots of things to learn from Asia. (Not only entrepreneurs, but governments/NGO/companies have things to learn especially about business in reconstruction)
多くの人にこのメッセージが届きますように。
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