貧困解決についてAcumenが学んだ10の事
私の所属する組織、Acumenは寄付を企業/財団/個人の方から募り、ビジネスアプローチを使って貧困問題の解決に取り組んでいる企業・リーダー(発掘/育成)に投資をしています。
その、Acumenが2013年の3月にまとめた「10 Things We've Learned About Tackling Global Poverty」というものを今日は紹介します。組織設立10年目の節目にまとめられたもので、最初の10年間の試行錯誤の結果得た学びがつまっています。そしてその次の10年間の活動の指針を決める上で大切なこと。
"Nothing about this work is easy. We are proud of our accomplishments over the last ten years, but we’ve learned at least as much from our struggles along the way. While we know we don’t have all the answers, there are some important truths we have discovered in doing this work. These truths will guide our work in the next decade and beyond."
その一
Dignity is more important to the human spirit than wealth.
富よりも大切なのは一人一人の尊厳である
貧しい人のために課題を解決するのだ、という考え方を手放すこと
むしろ、彼らを「変化を起こそうとしている当事者」と捉え、彼らの声に耳を傾ける、そして、多くの選択肢や機会に彼らをどうつなげられるだろうかと考えるべき
この地球上で生活する人が一人残らず「人間らしい」生活ができるような日がくるまで、徹底した取り組みが引き続き必要である
その二
Neither grants nor markets alone will solve the problems of poverty.
助成金/寄付金/交付金も市場の仕組みも、それら単体では貧困問題は解決できない
(「忍耐強い」資本という考え方の元では)市場メカニズムは利益の最大化ではなく、ターゲットとなる顧客のニーズを汲み取る「listening device」として機能する
忍耐強い資本の考え方を知りたい人は:書籍:ブルー・セーター――引き裂かれた世界をつなぐ起業家たちの物語(amazon)
なぜならば、如何に少額であったとしても商品やサービスに対価を支払うことで、彼ら/彼女達は「何を求めているか」「何に価値を感じているか」「何を購入する/しないつもりか」の意志表示をすることができるから
その三
Poverty is a description of someone’s economic situation, it does not describe who someone is.
貧困とは、とある人が置かれている状況であって、その人がどういう人間かを表すものではない
低所得者層の人達も、中〜高所得者層の人と同じで「ステータス」「美しさ」「リスク回避」など様々な要素を元に意思決定を下している。
したがって、安ければ喜ぶに違いない、という前提には注意が必要である
'We focus on the customer not as someone with a series of problems to be solved, but as a full human being'
その四
We won’t succeed in the long term without cultivating local leaders, local money, and strong local communities.
(貧困問題の解決における)長期的な成功には現地のリーダー、資本、強いコミュニティの発掘/開拓が不可欠である
地域に根ざし、中長期的に実現性のある解決策。それは現地から遠く離れた場所で誰かに決められたものではなく、現地にいるチーム、循環する地元の資本、何百万人もの現地にいる顧客を含めたものであるはずで。この実現に時間こそかかるものの、長期的に成功するのはこのモデルである。
その五
Great people, every time, no exceptions.
人は財なり
どんなに厳しい環境においても前に進み続けていく意志と熱意を持った起業家とそのチームが最優先。事業計画、革新的な商品/サービス、資本は全てその後の話。
リーダー達の持つべきマインド:"they are tough(不屈の精神を持ち), disciplined (自律的で)and unrelenting(執念深く): they are also empathetic(他人の状況を理解しようとする姿勢があり), open-hearted (新しい思想を取り入れることができ)and patient(忍耐強い)"
リーダー達の持つべきスキル: "financial skills, operational skillsそしてmoral imagination"を持っている (Moral Imagination: Having the humility to see the world as it and the audacity to imagine the world as it could be)(宣伝▷上記スキルの強化用に無料コースを提供しています)
あまりにも多くの(途上国に対する)開発プロジェクトではその内容や政策のほうに力点が置かれ、一番大切であるはずのリーダーシップ関連への取り組みが不足気味
その六
Great technology alone is not the answer.
どんなに素晴らしいテクノロジーであってもそれだけでは解決できない(のが貧困問題)
洗練されたデザインよりも解決策の届け方におけるイノベーション(顧客からのインプットの活用、販売代理店などとの協業体制、経済合理性)が重要な時のほうが多い
"No matter how great an invention is, the business has to function in the real world where dealers, distributors, business partners, employees, and especially customers must vote in favor of your product each and every day.
同じことをTEDで話していたSendhil Mullainathan教授(過去エントリ-:Sendhil Mullainathanという行動経済学の教授)
その七
If failing is not an option, you’ve ruled out success as well.
失敗の余地を与えないということは成功の可能性をも奪っていることと同義である
「私達はリスクを取り、失敗もしている」—社会に変化を起こすための新しい「青写真(blueprint)」の創出には、立証されていない起業家やリーダー、アイディアに賭けることがが必要である
AcumenがMonitor Inclusive Markets(今はDeloitteの一部)と2012年に発行した「From Blueprint to Scale」レポートでは「Pioneer Gap」という問題点が強調されています
Blueprint > Validate(検証プロセス)>Prepare(立ち上げ準備)>Scale(事業拡大)のうち、ValidateとPrepareの段階にいる起業家を支援するシステムが整っていないという問題
Scale段階にいるベンチャ-に比べてリスクの大きいその前段階。失敗はつきもの。でもそこの段階にいるベンチャ-こそサポートが必要で、かつ大きな可能性を秘めている場合がある。
その八
Governments rarely invent solutions, but they can scale what works.
政府・行政はほとんどの場合、解決策を生み出してはくれないが、上手くいっている解決策を展開するサポーターになってくれる
2001年当初は(政府機関を含む)公共セクターとの協力体制はなかったものの、次第にそのアプローチに変化が出て来て、近年では投資先のベンチャ-と州政府などとの関わりも生み出されている
Monitor Inclusive Marketsが2014年に発行した「Beyond the Pioneer - Getting Inclusive Industries to Scale」ではベンチャ-や起業家を取り巻くシステムにフォーカスが当たっており、そこではEnterpriseの他に、外部に存在するValue Chain, Public Goods, Governmentといった「Industry Facilitators」の役割が論点となっていました
先日参加する機会のあった「The Intrapreneur Lab」(ビデオ)に国際機関であるUNDPのBusiness Call to Action (BCTA)(記事)、オンラインコミュニティBusiness Fights Poverty(記事)、教育機関であるCornell Johnson SchoolのThe Center for Sustainable Global Enterprise、AccentureのAccenture Development Partnerships、民間企業であるバークレイズ社、GSK、ノバルティス、コカコーラ、等が参加していたのも印象的です
Acumenも昨年からTechnical Assistantという形で大企業の持つ人的/機能・能力的/知的資源と投資先ベンチャ-をwin-winにつなげることに取り組んでいます
その九
There is no currency like trust, and there are no shortcuts to earning it.
全世界で価値のある「信頼」というもの。それを得るための早道は存在しない
"Trust is the most precious commodity we can offer. It isn't so much what we do most of the time, but how we do it that counts"
昨年のグローバルフェローだったNatalie, Christina, Junkoの三人がForbesの「The 9 Keys To Leading With Dignity」記事に取り上げられています。9番目がBuild Trust。
「You need to do what's right, not what's easy」
その十
Patient capital investing is built upon a system of values; it is not a series of steps to be followed.
「忍耐強い」資本投資はそれを支えているいくつかの価値観により成り立つアプローチであり、一定のプロセスを追えば実現できるものではない
バランス感覚が求められる価値観
generosityとaccountabilityのバランス
listeningとleadingのバランス
humilityとaudacityのバランス
その三つのバランスを根底で支えるintegrityとrespect
「ルール」が必ずしも存在しない、グレーな世界にはこういった指針を元に意思決定をしていくことが求められる(過去エントリー:白でもなく黒でもなく)
とはいってもそれが楽ではないのは今ナイジェリアで投資先に赴任中の小早川さんもブログで言っていること(東京財団ブログより:「ナイジェリアレポート(2)」)
結局、(貧困解決に向けた)全ての答を知っている人は誰もいない。 皆で一緒に答を探していかなくてはいけない。次の10年間もやるべきことは山盛りです。
関連エントリー:
失敗については:「『最高の授業』を世界の果てまで届けよう」を読んで
Dignityについては:「人のために何かをしたい」という気持ちが『悪』につながるとき
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