自分にとってのトリガー(trigger)を理解する

今の私の仕事は社会起業家をはじめとする「リーダー」達向けの育成プログラムのデザイナー。「それってつまりどういうことをデザインしているの?」とよく聞かれるのですが、最終的に行き着くところは「(普段とても忙しくプレッシャーがいっぱいある人たちが)自己理解を深める場のデザイン」だと思っています。

自己理解を深める、を具体的に紐解くと、 自分はどういう考え方をする傾向があるのか、信じていることは何か、モチベーションの根源は、コミュニケーションスタイルは、それらはどのような軌跡を経て形成されたものなのか、そこにある前提は・・・といったもの。

普段やること・やりたいことに覆われている人たちが、こういうことにじっくり向きあう時間を取るのは難しい。でも難しいけれど大事、そういうことで私たちのプログラム(対象層は大体20代後半から40代前半の年齢層)ではそういうことのための時間・デザインを大切にしています。

なぜ大事か。自分のことにしっかり向き合うことができると、他者から得られる「リーダー」の多様な在り方やアプローチ、業界・歴史の先例からの学びを鑑として自分を振り返ることができる。自分にとって積極的に取り入れなければいけないなと感じるもの、取り入れたいなと思うものが見えてくる。そして、自分自身の体験からの学びの吸収率も高まってくる。もちろん、自分の癖を理解してそれを意識できるようになると日々の他者との関わり方を自ら変えるきっかけになったりもします。

ということで

自己理解に必要な「心・頭脳の筋肉の鍛え方」を体験・練習してもらう場(一年)を作っているわけですが、今日はその一つのトピックである「自分のトリガー(trigger)を把握すること」について書いてみようと思います。

 

まずは英単語triggerそのものの意味

英辞郎にあったトリガー(trigger)という英単語の意味を書き出してみました。そのうち、私たちがこの単語を使うときの意味に一番近いものは太字にしました。

他動詞

- 〔銃などの〕引き金を引く、発射させる

- 《機械》〔機械や回路などを〕動作[始動]させる

- 〔出来事や反応などを〕引き起こす、もたらす

用例:Small event can trigger a big explosion. : ささいな出来事がきっかけで大爆発が起こる可能性がある。

用例:What triggered your interest in this business? : この商売に興味を持たれたきっかけは何ですか。

〔法令を〕発動させる

名詞

- 〔銃などの〕引き金

- 《機械》ばね止め

- 《電気》トリガー信号◆機器を動作させるためのパルス信号

- きっかけ、誘因、要因


上記にあるようにtriggerは名詞としても動詞としても使われることのある単語です。私たちのプログラムでも名詞・動詞の両方の使われ方があります。「●●(自分、または誰か特定の人)にとってのトリガー(trigger)が・・・」と使ったり「■■(身の回りで起きたこと、自分が見聞きしたこと)がトリガーになった」というように。

 

「カチンとくるキッカケ」としての使われ方 〜 プライベート編

意味が近いフレーズを日本語で敢えてつくるとしたら「カチンとくるキッカケ」でしょうか。仕事に限らずプライベートの場でも使える概念と思っています。

例えば、ついこの間。彼の行動に自分がカチンとなったことがあり、待ち合わせの場所に到着した時も自分の不機嫌が収まらなかったことがありました。その時自分の不機嫌の理由を説明する際に「●●は私にとってのtriggerだから、あなたにとってはそこまでbig dealじゃないかもしれないけれど、こういう感じに不機嫌になるから今後はそれを知っておいてね。私の数少ないtriggerの一つなんだからよろしく」という感じに。

ここまでストレートに口に出さなかったとしても、このtriggerという考え方は、何らかの出来事が起きて自分の心と体が強く反応を示しているときに頭の中で一旦一呼吸を置くこととその状況を客観的に眺めることを手伝ってくれます。「自分はなんでこんなに強い反応を示しているのだろう」「あれ、もしかしたらこれは自分にとってのtriggerなのかな」というように。

そうすると彼に対するプチイラがムクムクと心の中に広がったとしても、頭の中で「そうか、私にとっては大事なことで私にとってはtrigger要因だけれど、きっとそれを彼は知らない。彼にとってはこれはtriggerじゃないから」という説明がまず浮かぶようになります。そういう頭の中での自己対話というクッションがないと、危うく相手にすぐ不満をぶちまけてしまいそうになる、きっと同じことに対する感じ方(trigger度合い)は二人の間では違うはずなのに。ぶちまけて良い空気が生まれることなんてほとんどないというのも知っているのに。

同じようなtrigger概念のプライベートでの応用事例をもう一つ。

1日に一度「1分以内で実践できる、パートナーとの関係性を円滑にするためのヒント」が送られてくるThe Marriage Minuteというメルマガが好きなのですが、その先日のメールのタイトルが「Emotional triggers」でした。まさに「カチンとくるキッカケ」という意味で使われているtrigger(トリガー)がここにも。

全文を転載するとこんな感じのことが書いてありました:

We all have emotional triggers. When those buttons are pushed, we’re reminded of a memory or situation from our past. (私たちは皆感情的なtriggerを持っている)

Working on understanding each other’s triggers is one of the most important things you can do in your relationship.(パートナーとの関係構築・維持の中で最も大切なことの一つにお互いにとってのtriggerは何かを理解することがあげられる)

Learn the stories behind your partner’s triggers to understand where they’re coming from. (それぞれのtriggerやその由来を理解し合うこと)

With this knowledge, you can identify which behaviors to avoid, so that the two of you don’t accidentally set each other off.(それがあれば、相手に対して思いやりを持って接することができる)

ここで抑えられているポイントはまさにリーダー育成の現場で伝えたいと意識しているものと同じ。

 

Trigger概念と使い方 〜 仕事編

上の彼との会話のパターンでも少し書きましたが、この概念を意識しているかどうか、自分のtriggerは何かについて日々向き合っているかどうかの有無は中長期的に相手とのコミュニケーションに大きな影響を及ぼします。

普段私は彼と喧嘩するより、もっともっと多くの頻度で同僚とぶつかっています。特に時間やアウトプットの質に対するプレッシャーが存在するプロジェクトでのケース。普段は互いに対する尊敬と友情という暖かい絆で結ばれている仲間同士でも、極限の状況で、プログラム参加者のために、その他のステークホルダーのためにこうしなくては、したいという熱い想いや真剣さがぶつかるときがあります。

そういうときに人間としての些細な違いが表面化して相手に対してイラッとした感情を抱くことがあります。それぞれ得意分野やアプローチや優先順位のつけ方が違うのは理解しているつもりなのに。締め切りが迫っていたり予想外の出来事が起きたり、ストレスレベルが双方で高まるとどうしてもゆとりがなくなって「生の」姿が双方ムクリと起き上がり、刺々しくなってしまう時があるもの。遠隔で顔が見えず文字や声を通じてやりとりをすることも多いので尚更ここは気をつけなくてはいけないのに。

そして、そんな自分がイラッとした時はだいたい相手もなんらかの心の波を感じている場合が多いもの。だんだんとトゲトゲが対立になって双方疲弊するシナリオもあります。でも、triggerという概念を両方が知っていると、両方の関係は最悪の事態の(怒りや失望や関係そのものに傷を残す)前にガス抜きができることが多かったりします。

「ごめん、昨日のメールの書き方は少し尖ってしまった、多分ちょっとxxでtriggerされてしまったまま送ってしまったから」といった形でやりとりが始まって事態のガス抜きが完了したり、

「先週終わったあのプロジェクト(なかなか途中チーム内で揉め事があり難航したもの)の振り返りをしようか。I am sure there were moments I triggered you, and there were moments that became my trigger。So it will be great if we can talk about it」というように、お互いに対立する形でぶつけ合ってたエネルギーを、共通の方向へ(次回より良い形で協業できるように、という目的)切り替えるきっかけになったり。

もちろん、片方はtrigger体験がいっぱいだったのに、逆側はケロリとしている時もあったりします。そういうシナリオでも、こういう風にオープンで対話をすれば最低でも次のときのために「あーこの人はこういうことでtriggerされるんだな」「この人は全然こういうの気にならない人なんだ」というように、それぞれの相手の理解につながります。

 

仕事を通じて人生への学びも

そんな感じで仕事でも家でも便利なtrigger概念。

ちなみに私のtriggerの一つは「他にもっと有効な時間の使い方があったのに、誰かの優柔不断のせいでその限られた時間が無駄になるとき」だったりします。こういうのもtrigger概念が頭に入ってなかったらこういう風に以前は説明できなかったと思います。

でも自分特有のtriggerとして捉えると、そうだよね、多くの人にとってはその10分とか30分の差で私が「こういうことにもあーいうことにもこの時間が使えたのに、ムキー」と思っているとは思わないよね、普通。と考えられるようになるのであんまりイラッとしなくなります。

そして、家族それぞれにとって何がtriggerなんだろう、と注意して家族チャットを見たりするのもなかなか勉強になります。例えば日本にいる妹は「実家の愛猫たちにとって住環境が快適に維持されていない状態」にtriggerされやすいんですよね、猫想いの妹。

chura cat

こんな感じで今の仕事で吸収していること・実践していることの多くは人生・日々の生活の過ごし方においてもとっても有益なものが多いです、今回は長くなりましたが、これから他のこともちょこちょこ共有できればと思います。


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