Tomoko Matsukawa 松川倫子

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「幸せの沸点」論ってどうなのか

この間聞いたポッドキャストのエピソードの一部で流れてきたこんなフレーズ。

50% of happiness is determined by your genes. 10% of happiness is determined by the circumstances in which you live. 40% of happiness is determined by your actions, your attitude or optimism, and the way you handle situations.

私たちがそれぞれ感じる「幸せ」というものは以下の3つによって左右されているという一説らしい。その3つとは:

  • 遺伝子で定められた特性:50%

  • 自分たちの物事の捉え方・行動次第:40%

  • 外部環境など、私たちが置かれている状況:10%

そして、この50%+40%の要素によって影響されるものに「幸せの沸点」(英語ではhappiness set point)という名前がついている、と。私が聞いたエピソードの解説者はさらに、この沸点の位置は遺伝子である程度定められている一方で、戦争・暴力・離婚などといった多大なストレス要因が身近に長い間ある場合、沸点の位置に影響を与える場合がある、と続けていた。

このエピソードを聞いたときは「そっか、置かれた状況・環境は1割か、思った以上に低いんだな」とか「幸せの沸点がもともと低めな人は、もともとそれが高い人より、きっと辛いと感じる度合いが違うんだろうな」というようなことが頭に浮かんでいたような気がする。

でも、今日ふと、この理論についてちょっと調べ物をしてみようという気になった。いや、これってどれだけ真面目に言われている話なんだろうか、本当なのだろうか、とか。

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「幸せの沸点」by Sonja Lyubomirsky

ちょっと調べてみた結果、これはポジティブ心理学の世界では、普通にある程度真面目に言われている話らしい、ということを知る。

この「幸せの沸点」というフレーズを広めた心理学者の一人はSonja Lyubomirsky氏。彼女はThe How of Happiness(2008年)という本やThe Myths of Happiness(2013年)という本を書いていて、「どうやったらもっと幸せになれるか」を模索する人たちに読まれているらしい。

「幸福論」や「心理学」について特集を組んでいるポッドキャストやインタビュー動画・記事などで彼女のことが紹介されていた。

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彼女によると、この私たち一人一人が持っている「幸せ沸点」の高低は「幸せ遺伝子」(英語ではhappiness gene)である程度定まって始まる、という。でも、同時に「とはいえ、より幸せを感じやすい性格になっていく(沸点が低くなる)ことは可能」とも言っている。

つまり彼女の理論では、合計9割(5割+4割)の部分の内訳に多少の振れ幅があったとしても、残りの1割の要素となる「置かれている環境そのもの」は引き続き低めである模様。

「5 + 4 + 1」の限界

実はこれは彼女に限らず、ポジティブ心理学者と呼ばれるアカデミアの人たちに共通する傾向。

「幸せを定める重要な要素」または「幸せをつくっていくという過程」においてより大事なのは私たち自身のマインドセット(遺伝子的に定められているものも、自己体験や周囲にいる人たちから受ける影響によって形成されたものも含む)であるとか意志力といったものである、という考え方。

そういったロジックは多くの人に期待・希望を与えるのだろうな、と想像ができる一方で、本当にそうなんだろうか、という気にもさせられる。

実際"You Can’t Always Make Yourself Happy" - the CUT Oct 2016という記事の中ではLyubomirsky氏に対する批判の一つとして、完全に自分たちの思うようにならない様々な要素、とくに他者との関わり合い、の影響力を過小評価しているという点が述べられていた。

確かに人間関係の質と幸せの関係性については色々な形で話題にもなっている。

その一方で人間関係の質という要素は完全に前述の4割のカテゴリー(物事の捉え方・自分の行動でどうにかなる部分)に入れることは難しいし、かといって1割の部分(置かれた状況そのもの)に押し込めるというのもなんだか違う気がしないでもない。実際このページにあるような図を見ると、この5+4+1の円グラフの分け方理論では他人の存在が全く見えてこない。

加えて、他人とどういう関係を築いているかという要素そのものに「遺伝子 + 自分の捉え方・行動 + 置かれた状況」の全てが関わってくる気もしないでもない。

「幸せの沸点」という動的なものを皆私たちは持っているのだろうけれど、その高低がどう定められているか、どう沸点の位置が変化しているのか、そして、私たちが他者とどう関わっているかはどう関係してくるのか。

単純化された円グラフの図では説明できないものがまだまだある、そんな気がしている。

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